文学

メリークリスマス・フロム・ムツキ!

今年も赤くなれなかったダメなわたし(これでもポインセチアなの)… ・ 二日ほど熱で朦朧としていた間に、ジュリアン・グラックが亡くなっていた。 97歳。 『シルトの岸辺』、『アルゴールの城にて』、『半島』… ある時期、とても好きな小説家だった。 地勢…

スイス=ブラジル1924 ブレーズ・サンドラール、詩と友情

スイス生まれの詩人サンドラールの生誕120周年を記念してのイベント。 貴重な資料映像、詩の翻訳と朗読、ピアノ演奏(ヴィラ=ロボス、ミヨー、ジョビン)、手づくり本とすみずみまで丁寧で、この種の催しでは久しぶりに、ほんとによかった。 特に山口昌男翁…

フォークナー、ミシシッピ

グリッサンの『フォークナー、ミシシッピ』をどっぷり読んだ二日間。 一日は英語で、もう一日はフランス語で。 酷暑に無理やり頭を使うというのも何だけれど、ミシシッピ州とフォークナーの世界をぐるぐるドライブしてる感じで、夏休みらしいチョイスでもあ…

鄭義、高行健、家畜の快進撃

中国には全然詳しくないのに、中国人作家にはなぜか縁がある。 ここのところ仕事で高行健のことばかり。 時間がないので読みきれないが、大著二冊と発言に目を通す。 当局ににらまれて、アメリカに亡命したのが鄭義なら、フランスに移住したのが高行健。 ノ…

おまえ、幼年時代(マクシマン)

「きみ」とか「きみよ」の方がいいかな。 「きみ」というと「ボク」という甘えた一人称が対応するからちょっとな。 グアドループの火山のふもとに育った少年の話。 四大元素が四つの章のタイトルをなす。 まだ「火」の章の途中だけれど、二人称の小説に弱い…

『闇の中の旅』

二校分の答案採点をようやく終わり、続いてジーン・リースの小説『闇の中の旅』(1934)をがんがんと読み倒す。 イギリスの小説をほとんど読まないせいか、とても風変わりな英語に感じる。 それに、く、暗い…。 18でアル中はよくない、人間シラフで勝負しな…

ガブリエル・ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』

51年9ヶ月と4日、女を待ち続けた男は、再び彼女との関係を紡ぎ直す。 時間がないのに読みやめられず、それでも何度も中断させられ、最後の数十ページは苦痛なほどの愉楽。 ガルシア=マルケスの他のどの作品より私は好きだし、いろいろな意味で自分のために…

現代小説いろいろ

ちょっと前だが、まとめて雑誌を捨てる折りに、一応芥川賞だからってことで絲山秋子の「沖で待つ」と伊藤たかみの「8月の路上に捨てる」を読んだ。 絲山秋子は前に創作を読んでもらった編集者に名前を出されて、あれは売れるとかいわれて「関係ないだろ!」…

古事記の世界

自我を極力ニュートラルに保って、ようやく正月休みを切り抜けた。 今日から日常に戻ったけれど、休み中依存していた読書(4、5冊を同時並行)が切り上げられない。 特に『口語訳・古事記』が面白くて、一気に読んでしまう。 ラブレーなんかよりずっと面白…

金井美恵子『快適生活研究』

ポール・ギルロイのサイコロみたいに分厚い『ブラック・アトランティック』も読まなければいけないし、図書館から借りた貴重書、ルネ・マランのBatoualaにも目を通さなければいけないし、他にもいろいろあるけど、年末に少しぐらいこういう類を読んだってい…

リービ英雄『千々にくだけて』(講談社、2005年)

あんまり気が滅入るので解消しに美容院に行ったら、逆に表参道で冷たい霧雨に吹きつけられて発熱。最寄りのヴェローチェで動けなくなる。私はヴェローチェの雰囲気やコーヒーの味が好きではないのに、いつもなぜか行かざるをえない因果であるようだ。 久しぶ…

昨夜は仕事をしていて、夏至が近く、夜明けが早いのを実感。4時になると外はもう明るい。私は冬至生まれだけど、毎年夏至が近づくと心がときめく。 昼間は中休みで、近所の神社境内にできたカフェでビール。新緑のテラスが気持ちいい。神社内のカフェってど…

応募原稿の締め切りを5日も間違えていたので、泣きそう。今日はすでに7本で、本日のノルマは突破した。一応ちゃんと全部目を通している。 つらいのは梅雨時のこの時期、私は三半規管がめちゃくちゃに狂うことだ。そのひどさは年によって違うけれど、外を歩い…

ここ何年か、5月・6月は大量の応募小説を読む季節。「自分の作品が人に読まれるとしたら」という対等な意識をもって読む可能性があるのは、まずこの段階の選考者だけだと思うので、ちゃんと読もうとは思うものの、今年はあまり気力が出ない。あと2週間で70本…

伊藤比呂美『日本ノ霊異ナ話』朝日新聞社、2004年

平安初期の仏教説話『日本霊異記』を下敷きとした連作短編。想像豊かで、その辺のポルノなんかよりよっぽどエロティックな世界である。 男遊びが過ぎて子供をうっちゃらかした女が、膿汁の出るおっぱいに苦しむ「乳やらずの縁」、写経中の男が目前のまんまる…

Suzanne Lacascade, Claire-Solange, âme africaine (続き)

クレール・ソランジュはマルティニック出身という設定ながら、アンティユへの帰属意識はほとんど示されない(彼女の白人の父はガリエニの盟友とされていて海外勤務が多く、クレール・ソランジュもマヨットやコモロなど植民地を転々としながら育った様子)。…

Suzanne Lacascade, Claire-Solange, âme africaine, Paris, Eugène Figuière, 1924 

シュザンヌ・ラカスカード『クレール・ソランジュ アフリカの魂』 1920年代、マルティニック出身の混血女性によって書かれたこの小説を、エメ・セゼールに先んじたネグリチュードの先駆的作品として評価を働きかけているのは、現在マリーズ・コンデだけだろ…

ジャメイカ・キンケイド『川底に』平凡社

冒頭の「少女」を英語で読んで衝撃を受けて以来、続きも読まなければと思い続けて数年、ようやく全編を読む(今頃読んだなんて、恥ずかしくて知人にはいえない)。 お母さんから娘へのワンセンテンスの説教に続くのは、夜の深さ(丸かったり、平べったかった…

この数日まるでやる気が出ず、寝転んで桐野夏生の『魂萌え!』を読んでいた。「すごくいい」という意見と「つまんなかった」という意見、両方あったが、前者の方が信用度が高かったため。すごくいい、というより、ナイフで胸を抉られた感じ。自分を取り残し…

土曜日のル・クレジオ講演に備え、以前からつまみ読みしていた最新刊、『歌の祭り』(岩波書店、2005年)を読む。 全部通して読む予定だったが、古代インディオの書『ミチョアカン報告』について書かれた章はどうしても読み通せなかった。すべて私のフォーク…

[植物]

風景について書くことは陳腐なようでもあるけれど、ハワイ島の風景からはこれまでにない感動を受けた。 黒色の美しさ、硬いものの美しさというものを、島全体、塊をもって教えられたという気がする。 そして溶岩の黒、それが砕かれ砂になった黒を引きたてる…

ポール・リクール『記憶・歴史・忘却』(上)久米博訳、新曜社

個人の記憶の現象学と集団的記憶の社会学の関係については、相変わらずよくわからない。アウグスティヌスの時間やアルブヴァクスの記憶についての難解な思想をたどった箇所をじっくり理解するだけの暇はないので、今のところはリクールの以下の示唆だけを頭…

スピヴァクの『ジェーン・エア』論を繰り返し読む。この作家のいう「完全に男性でないとは言えないような存在(not-quite-not-male)という言葉が気に入っている。 自分のマイナーな部分が受け容れられないことに苦しむほど、私たちは「自分こそキャリバンだ」…

アマゾン・フランスで本を14冊注文。今年はユーロ高が続き、この春以降は本買いを控えてきたのだ。夏に一時期下がったけれど、そのときはこっちのパソコンが壊れていたし。ずっと1ユーロ140円を超えていたのがここにきて130円台に下がり、今日は139円30銭か…

今年最後のホットヨガ(といってもまだ二回目だけど)。湿度が前回より高く、70パーセントぐらい。体調も万全でなく、きつかった。とはいえ汗を大量にかくのは気持ちいい。今日はヨガパンツに競泳用セパレーツ水着の上を着てやったが、ファッション的にも機…

頻繁に起こるめまい、刺すような腹痛に微熱。風邪かとも思ったが、まずまちがいなく知恵熱。情けない。雨も降っていないのに、ずっと雨の音。そしてこれも疲労しているとき起こることで、朝起きたとき、自分がどういう状況かわからない。誰かぐらいはわかっ…

マリーズ・コンデ『生命の樹』

何度目かの読み直しで、テーマをまとめることを意識しながら読んだのだが、読むほどにその意図は奥深く隠されているように感じられる。 パナマ運河の出稼ぎと北米での事業でブルジョワへとのし上がった黒人アルベール(スバル=野生人)を父祖とし、四代目の…

最近、立ち読みをしていて泣いてしまうことが多い。今日は放送大学テキスト「フランス語Ⅲ」に引用されていたエメ・セゼール『帰郷ノート』の一節を読んでいて、深く共振してしまい泣く。以下がその一節。 「おお、友愛に満ちた光よ/すがすがしい光の源よ/…

久しぶりの発熱。雨でもあり迷ったが、髪型が限界だったため無理をして美容院に行く。思った通り、悪化するどころかむしろ気分は向上した。青山の美容院を出たところでまた地震。熱が出たままここから家まで歩くのはつらいなあと思ったが、地下鉄はすぐに動…

阿部和重「課長 島雅彦」『新潮』11月号

痛快のひと言。余裕のある場所からの無責任なおもねりは、理解を装っても当事者には敏感に感じ取られるものだ。阿部和重は芥川賞を取ってなお、マイナーであることの実感を苦しんでいるかに見える。 この作家の、自分の男の子っぽさとの折り合いのつけ方も好…