マリーズ・コンデ『生命の樹』

何度目かの読み直しで、テーマをまとめることを意識しながら読んだのだが、読むほどにその意図は奥深く隠されているように感じられる。
パナマ運河の出稼ぎと北米での事業でブルジョワへとのし上がった黒人アルベール(スバル=野生人)を父祖とし、四代目の少女によって語られる、カリブの一族の年代記
教育だけが貧しさから救ってくれるという、元奴隷の立身出世物語の典型(『マルチニックの少年』)とも、大地に根を張り、農民生活に誇りをもつ地域主義とも相容れない。
いいようのない孤独感が子や他人への謂われない非情なふるまいをもたらし、一族ごと孤立してゆく。放置される妻や愛人、理由なく教育を拒否された子供たちは深く恨みを溜めてゆく。肌色にそぐわない出世を妬まれ孤立しながら、周りの人間を力でないがしろにしながら、一方で、政治的な活動につねに魅惑されては挫折する男たち(アルベール、ジャコブ、ジャン、デュードネ、一族の四人もの人間が政党を立ち上げては失敗する)
黒人であることの絶望感と「私たち」の物語を紡ぐことの間の引き裂かれ?愛人も子供も増殖してゆく混血社会が祭り上げられるようなものではないという、放置された者の側に寄り添っての異議申し立て?
楽しく、豊かでもある小説だが、じつはクレオール文学の典型とは程遠いのである。むしろガルシア=マルケスの『百年の孤独』に似ている。