Suzanne Lacascade, Claire-Solange, âme africaine, Paris, Eugène Figuière, 1924 

シュザンヌ・ラカスカード『クレール・ソランジュ アフリカの魂』
1920年代、マルティニック出身の混血女性によって書かれたこの小説を、エメ・セゼールに先んじたネグリチュードの先駆的作品として評価を働きかけているのは、現在マリーズ・コンデだけだろう。絶版になって久しく、私もフォール・ド・フランスにあるシェルシェール図書館の禁帯出の本を頼み込んでコピーしてもらった。複合的なアイデンティティを邪悪としてでなく肯定的に意味づけたこと、女性と自然の連関に初めて言及したことなど、コンデはラカスカードの先見性を高く評価した(『越境するクレオール』)。ただストーリーに関しては、かなりうろ覚えでまとめていたと判明。以下内容。
1914年春、ポル・ユカール夫人はパリの邸宅にマルティニックからの客人を迎え入れる。20年前、混血女性オロールと結婚したためアンティユに移住した亡き夫の弟エチエンヌ・ユカールが妻の死後、一家を引き連れ本国に来たのである。大勢の義妹や義母、乳母のクレオール風ふるまいに、邸宅は騒然となる。その中にはオロールとエチエンヌの娘、1894年生まれで20歳になるクレール・ソランジュもいた。善意の人ポル夫人は客たちをもてなそうと必死だが、クレオールたちの過剰な挨拶(キオップ、キオップと音のする三度のキス)やしどけない仕草、寒さへの嫌悪などに唖然とし、疲れ果ててゆく。
中でもクレール・ソランジュは子供っぽく、ピアノを弾きクレオールの歌をうたいまくる。いとこを紹介しようと夫人がいうとその肌が何色かにこだわり、「白人となんか絶対結婚しない」と断言する。その瞬間にいとこジャック・ダンゼルが現れる。音楽談義で交流が始まるが、ポル夫人の狼狽に対してダンゼルは初め無関心。マルティニックの植民者階級に共感を示したりもする。音楽教師をつけるにあたってアンチ・セミスムが話題になり、クレール・ソランジュは「黒人である私が、別の虐げられた人種を軽蔑できると思う?」と発言。伯母を仰天させる。「自分を黒人というなんて」とあわてる伯母に、黒人としての容姿を誇るクレール・ソランジュ。
クレオールの親戚たちはパリで買い物三昧だが、肌寒い気候に体調を崩し、クレール・ソランジュは塞ぎこむ。天候や植物のいちいちを熱帯のそれと比較し、馬鹿にするその態度にダンゼルはいらいらしながら、次第にその植物的な野生の香りを認めるようになる。(このⅣ章では、ダー(乳母)の命令的態度や髪結いの仕方など、アンティユ特有の描写続く。またⅤ章では、ペレ山噴火で移住を強いられた同郷の女性の挿話、ダモワゾー叔父から聞かされた奴隷制時代の挿話―主人に地中に埋められ瀕死の奴隷にタバコを吸わせてやる)
Ⅵダンゼルを迎えてのディナー。クレール・ソランジュはグロゼイユの実やオレンジをカリブ海ザンジバルと比較し批判。フランスの偽アカシアもカリブのアカシアと比べてけなす。ポル夫人を「ヨーロッパの伯母様」「白い伯母様」と呼んで挑発。黒い血、アフリカ人であることを誇るクレール・ソランジュ[66]。母の曾祖母はシン・サロームの王女だったと主張。一方でアンティユにおける女性たちの惨めさを告発する[67]。ダンゼルとクレール・ソランジュのギリシアとアフリカを巡る議論。母オロールの形見を取りに戻って火に巻かれ死んだ乳母の話。クレール・ソランジュの奴隷制大批判。クレール・ソランジュのしぐさが発するエグゾティズムと、偽アカシアの消えつつある匂いが重ねられる。Ⅶデュフロ嬢のアンティユ式お風呂の場面。クレール・ソランジュによるマルティニックのクール(中庭)とヴェルサイユの人工庭園の比較。熱くビギンを踊るクレール・ソランジュと、クレオールのなぞなぞ遊び。
Ⅷ フランスの地名も知らず、言葉使いのおかしい客人たち、古典の素養はあるものの他はまるでダメなクレール・ソランジュにポル夫人はキレまくる。夫人とダンゼルは、クレール・ソランジュが未踏の森の蔦のようにしなやかな体だが性格は頑固、ミュラートレスではなくサン・メレの特徴だ、と語り合う[サン=メリーの分類ではミュラートレスは1/2黒人、サン・メレは1/64黒人だが、ここでは厳密でないようだ]。
Ⅸ コンサート会場でスペイン女と囁かれ、「私はミュラートレス」と抗議するクレール・ソランジュ。文学などで流布した「ミュラートレス」のアブジェクシオン的性格や弱さに対抗し、栄誉を取り戻そうとしている[90]。「スペイン」への過剰反応は、コンキスタドールへの恨みでもある。衝突するほどダンゼルは彼女に惹かれてゆくが、他にふたりの恋人候補、ロシアの王女と友人の妹がいる。
Ⅹ 夜会でのクレール・ソランジュの豪奢な装い:絹っぽい光沢のある綿の真っ白なチュニックに不思議な模様の銀の刺繍、アクセサリーはエメラルドのボタンだけ。熱帯植物園のなかをダンゼルと歩き、紅海のある島で、髪に月下香を刺して踊った初めての舞踏会の思い出を語る。ダンゼルに愛を告白されるが、あなたは植民地になじむことはできないだろうと拒否。それよりフランスのよさを教えてあげようといわれ、男のエゴにぶちキレる。両親のパリでの逸話。母オロールの孤独と病の始まり。
XI 旅立つ客人たちの別れの宵。作曲家ゴッチョーク(当時の実在の人物)の挿話。アフリカ人士官、下士官の客、その出身(レユニオン、ギアナなど)の見分け方、クレール・ソランジュと父、ミミ叔母以外はセネガルへ。