[植物]

風景について書くことは陳腐なようでもあるけれど、ハワイ島の風景からはこれまでにない感動を受けた。
黒色の美しさ、硬いものの美しさというものを、島全体、塊をもって教えられたという気がする。
そして溶岩の黒、それが砕かれ砂になった黒を引きたてる微光がある。
2100度で地表に出たマグマが雪崩をうちながら固まったパホエホエ型溶岩のちらちら光る銀ねず色。日が暮れるにつれ浮かんでくるオレンジ色の熱の蛇行。島の端々をつなぐ長い山を縁どっている朝の光の砂金色。
すべてが死に絶えたような黒一色の溶岩平原は、同時に突然激動が起こりそうな禍々しさにも満ちている。子供の頃観た『猿の惑星』で猿人たちが馬を駆る、この世のものとは思われない恐ろしい背景は、セットなどではなかった。
こんな地面にさえ生える植物がある。オヘロの樹、オヒア・レフア。後者はキラウエア火山の女神ペレと因縁の深い植物で、ブラシのような赤い花をもつ。花の部分がレフア、樹の部分がオヒアと呼ばれる。
ハワイに住む女神ペレは、海を越えたカウアイに住むロヒアウに夢の中で恋をする。夢から覚めると妹ヒイアカを使者に任じ、ロヒアウを迎えにやらせる。カウアイで出会ったヒイアカとロヒアウは強く惹かれあうが、ヒイアカはペレを裏切らず我慢する。ふたりの旅からの帰還を待ちわびたペレは嫉妬に狂い、妹の裏切りを確信し、妹が大事にするオヒア・レフアの樹を滅ぼしてしまう。悲しんだヒイアカがペレの目前でロヒアウと交合したため、ペレは溶岩と火をもってロヒアウを殺してしまう。
折しもタヒチから帰還の途中だったペレの兄弟カネミロハイは、海上でロヒアウの魂が飛んでいるのを見つける。カネミロハイはそれを捕まえ、遺体に戻すとロヒアウは蘇生する。恋人たちは一緒になりカウアイへと戻る。(Pele, Goddess of Hawai'i's Volcanoes)
この恋人たちがオヒア・レフアの花と樹なのだと現地で聞いた。でもこのストーリーと少し違っているようだ。