伊藤比呂美『日本ノ霊異ナ話』朝日新聞社、2004年

平安初期の仏教説話『日本霊異記』を下敷きとした連作短編。想像豊かで、その辺のポルノなんかよりよっぽどエロティックな世界である。
男遊びが過ぎて子供をうっちゃらかした女が、膿汁の出るおっぱいに苦しむ「乳やらずの縁」、写経中の男が目前のまんまるい尻に目がくらむ「邪淫の葛」、女が肉団子を産んでしまう「肉団子」、僧が天女像と「くながひ」(性交)つづける「天女の裳裾」、骸になった男がそこだけ生々しく残った舌で経文を唱え続ける「あざらかな舌」。
蛇との交合をモチーフにした「山桑」と「蟹まん」は、どちらも強烈な恐怖と官能のイメージを喚起する。残酷な後者より、蛇に股間をつらぬかれた娘がはちきれ、蛇の子たちとともに空に浮かび、その後も人知れず蛇を恋焦がれる前者のほうがより好きだ。
そしてフアン・ルルフォを思い出させる「死者のまつり」。そこでは死者と生者が一緒に暮らしていて、ばあちゃんは死んだじいちゃんと話しながら暮らし、母に背負われた骸骨の子供は、時々がくっと首が取れたりする。くじゃく草とまむし草が咲き乱れている。道に放置された骸男は獣にかじられた上、目を突き破って筍が生えてきてしまい、痛くていやだなと思っている。
伊藤比呂美は自ら書いたこの小説に触発され、今度は詩を書いたとか。そちらも読んでみたい。