久しぶりの発熱。雨でもあり迷ったが、髪型が限界だったため無理をして美容院に行く。思った通り、悪化するどころかむしろ気分は向上した。青山の美容院を出たところでまた地震。熱が出たままここから家まで歩くのはつらいなあと思ったが、地下鉄はすぐに動いたのでよかった。
布団のなかでずっとプルースト。「コンブレー」というのは今読んでも甘美だけれど、つくづく慣習、伝統、地縁血縁、地域主義の喜びを綴った文章だ。私のように伝統文化とまるで無縁の人間には本来まったくふさわしくない。でも、イリエ・コンブレーを旅行する前に読んだのと後に読むのとでは想像する情景にも違いがあって(昔はもっと広大な家、広大な地方を想像していた)、それはそれで楽しい。
鈴木道彦『プルーストを読む』を読むと、おおむねこの個人全訳者の読み方には共感するけれど(サルトルは本来プルーストっぽいのだという鈴木氏らしい見解は強引だけどちょっと面白い)、井上究一郎訳に親しみすぎたせいか、翻訳じたいには納得しないところも多い。
やっぱり「ばら色」「さんざし」は「バラ色」「サンザシ」といわれると調子が狂うし、「じゃがいものピュレ」を「マッシュポテト」といわれると全然美味しそうじゃない。
確かに細かな誤訳は減っている。「わたし」が「サラマンドル」のいる庭の水槽近くに座る場面は、やはり井上氏の誤訳で、これはゴシック風のサラマンドル彫刻に見立てたトカゲが一匹水槽内にいるという、プルースト独特の隠喩を使って書かれた情景だろう(井上120、鈴木134、Pleiade,Ⅰ-70)。