映画

『パイレーツ・オブ・カリビアン』とティム・パワーズ『幻影の航海』

カリブ海研究者の風上にもおけないと言われそうだが、『パイレーツ・オブ・カリビアン――生命の泉――』を劇場で観る。 映画としての評価はさておき、ジョニー・デップの動きや声を大画面で観賞できて満足だ。 ・ 今回の作は、ヴードゥーの世界とヨーロッパの聖…

逆さ言葉さまざま

授業で『パリ20区、僕たちのクラス』Entre les mursを見せる。 20区の(原作では19区の)中学を舞台に、そこに通うアフリカ系、カリブ系、中国系など出身もさまざまな生徒たち24名を主人公にしたドキュメンタリー仕立てのフィクション映画だ。 一教師として…

映画の会

今日の映画の会は私がモデレーターにつき、カリブ海地域、特にフランス語圏をめぐる作品をいくつか用意しました。 1、ロバート・フラハティRobert Flahertyの『ルイジアナ物語』Louisiana Story(1948,U.S.A) 2、マヤ・デレンMaya Derenの『神聖騎士』Divin…

ペイル・ライダー

クリント・イーストウッドの映画(主演もしくは監督・主演)を三本もぶっ続けで観てしまう。 『荒鷲の要塞』(Where Eagles Dare 1968)、『センチメンタル・アドヴェンチャー』(Honkytonk man, 1982)、『ペイル・ライダー』(Pale Rider, 1985)の三本。 イー…

フランス語圏の映画

フランス語圏の映画の授業をやろうと思って、今あれこれ並びを考えている。 アメリカ合衆国のドキュメンタリー作家、ロバート・フラハティの1948年作品、Louisiana Story(『ルイジアナ物語』)は取り上げるつもり。 ルイジアナのバイユー岸辺に住むアカディ…

フランクリン・J・シャフナー『パピヨン』(1973)

以前観たのは子供の頃。 面白くて好きだったのだが、仏領ギュイアンヌが舞台なことはさすがに知らず、独房で虫を食べる場面やラストの海に飛び込む場面が記憶に残るのみだった。 初めてダスティン・ホフマンを発見して「いい俳優だな」と思ったのもこの作品…

ジャン・ユンカーマン『老人と海』

『チョムスキー9.11』『映画 日本国憲法』のジャン・ユンカーマン監督のもと1990年に制作されてから、今回ディレクターズ・カット版として20年ぶりの公開。 音楽は小室等、演奏は坂田明ほか。 ささやかな規模ながら全国を回っているが、ぜひ多くの人に観てほ…

備忘録:ジャン・ユンカーマン『老人と海 ディレクターズ・カット版』

「八重山毎日オンライン」を見ていて偶然情報を知ったのだが、あやうく見逃すところだった。 7月終わりから全国上映しており、一巡した後、9月11日から渋谷のアップリンクで上映。 ・ 与那国島のカツオ漁師を撮ったドキュメンタリーで、1990年の制作。 小型…

ペドロ・ルイス『ゆらゆらと漂流するプティゴアーヴの子供』(2009)

日曜日、フランコフォニー・フェスティバル会場の日仏学院に、作家ダニー・ラフェリエールに焦点を当てたドキュメンタリーを見に行く。 ダニー・ラフェリエールはハイチのポルトープランス生まれで青年期にケベックに移住したフランス語作家。 もともとジャ…

マルティナ・クドゥラーチェク『鏡の中のマヤ・デレン』(2001年、オーストリア・チェコ・スイス・ドイツ)

見ないで済ますわけにはいかないマヤ・デレンのドキュメンタリーを見に、駆け込みでシアター・イメージフォーラムへ。 ・ マヤ・デレンことエレオノーラ・デレンコフスカヤはロシア革命勃発の1917年、キエフのユダヤ人家庭に生まれた。幼少時にアメリカ合衆…

キム・ギドク『サマリア』(2004)、『受取人不明』(2001)

長年見たいと思いながら、縁がなくて見られないでいたキム・ギドク(金基徳)の『サマリア』をついに見て、本気で泣いて頭が痛くなる。 ふたりの少女=娼婦(クァク・チミンとハン・ヨルム)の可憐さ、苦しみのあまり狂気に傾いでゆく父親(イ・オル)の姿だ…

フレデリック・ワイズマン『パリ・オペラ座のすべて』

最初に観たワイズマン作品、『チチカット・フォーリーズ』(1967)はマサチューセッツ州の精神障害者用刑務所を撮ったドキュメンタリーで、無造作に指に煙草をはさんだまま患者を「診察」する医者の姿が強烈な印象として残っている。 刑務所や学校、福祉施設…

Jacques Sarasin, On the Rumba River(2007)

2008年に亡くなったルンバ・コンゴレーズの父、ウェンド・コロソイ(パパ・ウェンド)を中心に、その仲間たちとの音楽に焦点をあてた映画。 世界の隅々にはいい音楽が溢れているし、いい映画の題材が溢れているものだと思う。 ・ アフリカでは音楽家はしばし…

黒沢清『トウキョウソナタ』

気分転換で出た夜の散歩のついでに、今頃だけど『トウキョウソナタ』を観た。 夜の散歩で映画だなんて、そんな都会人自分だけかと思ったら、映画館はけっこう盛況。 家族みんなが追いつめられた映画ながら、黒沢(清)映画の完成度だと、いつでもどれでも楽…

食人しすぎる人々:マクナイーマ・ショック

東京フィルメックス映画祭で、ジョアキン・ペドロ・デ・アンドラーデ(ジ・アンドラージ)監督の『マクナイーマ』(1969)を観る。 http://www.filmex.net/2008/special_pa.htm (12月6日土曜日18:00にも再度上映)。 ブラジル民衆のヒーロー(アンチ・ヒー…

歩行とトラヴェリング

ミシェル・シマンによるエリック・ロメールの短いインタビュー映像を見て、そうか、ロメールの映画というのはこんなふうに二人の人間がいつも会話しながら早足で歩いていて、しかも向こうからこちらに向かってくるのでもなく、画面を横切っていくのでもなく…

エリック・ロメール『三重スパイ』(2003フランス)、西川美和『ゆれる』(2006日本)

きっといい映画が選りすぐられているのだからと思いつつ、なかなか足が向かなかった「フランス映画の至宝」。 ようやく一本を観て、普通に面白がる。 『満月の夜』で足元危うい80年代小娘気分を追体験し、『緑の光線』で沈みゆく緑の太陽を指さしながらマリ…

『いま、ここにある風景』(2006、カナダ)

写真家エドワード・バーティンスキーによる中国各地の撮影に寄り添い、構成されたドキュメンタリーの試写を見る。 ここにあるのは風光明媚な水墨画の世界ではなく、工業化により根本的に姿を変えたグロテスクな風景:Manufactured Landscapes(原題)だ。 居…

ジャック・ペラン『WATARIDORI』[Le peuple migrateur](2001、仏)

この他に、それぞれ違う大学の授業で見せる映画2本、サッカーワールドカップ予選・日本×オマーン戦、NHKの特集「ガラパゴス大異変」やマシ・オカの番組など。 濃い映像を複数観ると、個人の時間や人生では賄いきれず、ふらふらになる。 ・ 『WATARIDORI』で…

5時から7時までのクレオ

事故のように不運や問題が重なりあう時というのが最近定期的にある。 日常の小さな楽しさに敏感になることで乗り切ろうとしているけど、何か根本的に星が悪いというか、いやそうではなく、根本的に動物として弱いのだという気がする。 「質の高い弱さ」とい…

「いま ここにある風景」ではなく「一瞬の夢」

ジャ・ジャンクーの『一瞬の夢』(1997、中国=香港)を観る。 予定ではジェニファー・バイチウォル監督のカナダ映画『いま ここにある風景』の試写を観に行くはずだったのだ。 「『不都合な真実』『ダーウィンの夢』『いのちの食べ方』につづく、私たちが今…

クリストファー・ノーラン『メメント』(2000米)

野暮用をいくつか片づけ、すっきり気分で『メメント』を観る。 話題になっていた頃、熱心に感想を話す友人の話の内容に触発され、『メメント●●●●[漢字四字で人名が入る]』という映画のシナリオを考えた。 あまりの健忘症ぶりに呆然とさせられていた身近なあ…

松本貴子監督『≒草間彌生〜わたし大好き〜』(2008年、日本)

なんて爽快な天才の自画自賛! (はてなの新メニューに、マウスで描くおえかきソフトというのがあったので使ってみました)

マノエル・ド・オリヴェイラ『夜顔』(2006)『わが幼少時代のポルト』(2001)

1992年に日比谷シャンテシネで『アブラハム渓谷』を観て、その甘美さに圧倒されて以来、マノエル・デ・オリヴェイラ監督作品は、公開されるたびに足を運んでは期待が外れてがっかりするということのくり返しだったのだ。 それが、ああ、16年目にしてようやく…

貴乃花とモガリ

同じ星の人が、貴乃花の相撲協会役員入りを歓迎する旨書いていたが、私は違う意見だ。 貴乃花は確かに超一流の横綱で、私は人生において彼から学んだ大事なことがいくつかある。 彼を見ていると、「持続」ってことを考えてしまうな。 貴乃花の「持続」durer…

空から星が降ってくる(西ドイツ=オーストリア、1961)

主演がイナ・バウアーだからといって、昼間っからテレビでしょうもないB級映画をと思いつつ、いろいろ見どころがあるではないか。 興行師ものといえば、ブロードウェイを舞台にした30年代の娯楽大作『巨星ジークフェルド』があるけれど(確かプイグの小説に…

東京フィルメックス映画祭、ミケランジュ・ケイ『食べよ、これが我が体なり』(2006)

いろいろ象徴に満ちた作品だが(たぶん皆そこを語るのだろうが)、何より冒頭の空撮が圧巻。 あの長さ、そして適度なスピードで見せるハイチの俯瞰図はすばらしい。 鏡のようなカリブ海と波打ち際、赤茶けたトタン屋根のバラック群、残酷にえぐれて白い山肌…

『ロビンソン漂流記』

かねてからいっている通り、学生時代から今まで、私が最も評価している映画監督はルイス・ブニュエルなのだが、普段多くの作品に関して意見の一致を見る若者さえ「寝そうになった」といったので驚いた。 そうお? 私なんか、いろんな場面からずいぶん創作の…

わが自由の幻想

売れっ子でも専任でもないのに、なぜこうテンテコマイなのだろう。 家で確認する時間がないからと思って、大学図書館にたまたまあったルイス・ブニュエルの『映画、わが自由の幻想』を久しぶりにめくっていたら、その場で思わず吹き出してしまう。 「わたし…

ハイチ移民監督、ミケランジュ・ケイ

間もなく開催される東京フィルメックス映画祭において、ニューヨーク生まれのハイチ系アメリカ人監督、ミケランジュ・ケイ(Michelange Quay)の『食べよ、これは我が体なり』(Eat, for this is my body, ハイチ/2007/105分)が上演される。 2004年、16分…