『いま、ここにある風景』(2006、カナダ)

写真家エドワード・バーティンスキーによる中国各地の撮影に寄り添い、構成されたドキュメンタリーの試写を見る。
ここにあるのは風光明媚な水墨画の世界ではなく、工業化により根本的に姿を変えたグロテスクな風景:Manufactured Landscapes(原題)だ。
居並ぶ掘削機が地中をついばむ怪鳥めいて見える油田、廃物となった電子機器の山、廃船となって泥の浅瀬に浮かぶ石油タンカー、コロッセオかと見まごうほど正確な階段状に削られた採石場、工場や道路のラインと同じ黄色の作業服で統一された工員の群れ……
この写真家の手にかかると、この広大にして異様な場が独特の美しさを帯びた世界となる。
思わず、きれい! 面白い! といいたくなる。
だがそういえるのは写真の手前にいる者だけで、現実の向こう側はヘドロやカドミウムや煤煙が息づまるほどに充満しているのだ。

ジャ・ジャンクーの『長江哀歌』でも見た三峡ダムの建設で潰される集落は被爆された跡のよう。
2009年に竣工すれば世界最大となるこのダムは、600キロにわたり長江をせき止めて作るという。
どこかで聞いた数字と思っていたら、今朝方添削していた答案の文章に「パリ−マルセイユ間は600キロ」とあったのを思い出した。
つまりパリとマルセイユの間が全部ダムということだ。

マイケル・ムーアや『永遠の真実』のように主張の明快な映画にも考えさせられるが、バーティンスキーの芸術写真が見せる空間の沈黙にむしろ戦慄する。
映画監督は『ポール・ボウルズの告白 シェルタリング・スカイを書いた男』を撮ったジェニファー・バイチウォル。
7月半ばから東京都写真美術館イメージフォーラムで上映とのこと。