わが自由の幻想

売れっ子でも専任でもないのに、なぜこうテンテコマイなのだろう。
家で確認する時間がないからと思って、大学図書館にたまたまあったルイス・ブニュエルの『映画、わが自由の幻想』を久しぶりにめくっていたら、その場で思わず吹き出してしまう。

「わたしはスタインベックが死ぬほどきらいだが、[…]彼は――大まじめで――エリゼ宮の前をフランス人の男の子がバゲットを持って通りかかった時、衛兵に向ってそのバゲットで捧げ銃の恰好をしたのを見た、と語っていた。スタインベックはこのしぐさを「感動的」とみたのである。この一文を読んだ時、わたしは神のごとき怒りに燃えた。どうしてここまで恥知らずになれるものか?」

「わたしは衒学趣味(ペダンティスム)と専門家気取りの小むずかしい用語(ジャルゴン)が大きらいだ。[…]メキシコ・シティでわたしは<映画高等学院>の名誉総長に指名され、ある日、学院にご光臨を、と招待された。[…]小心者で顔を赤くしている、きちんとした身なりの若い男がいた。わたしは、何を教えているのかとたずねた。彼いわく、「クローン映像の記号学です」。殺してやってもよかったのだが」

「世界中の盲人のなかで、わたしがあまり好きでない奴がいるが、それはホルヘ・ルイス・ボルヘスである。彼がとてもいい作家であることは、まがうかたないが、しかしこの世はいい作家でいっぱいなのだ。なおかつわたしは、いい作家だからといって尊敬はしない。ほかの美質が必要だ。しかるに、六十年前に二、三度会ったボルヘスは、いいかげん生意気で、自分自身を崇め奉っていた。彼がのたまわったことはひとつ残らず、何か学者ぶっていて[…]自己顕示的なものが感じられる」

「わたしは変装が好きでたまらないが、子供のころからそうだった。マドリードで司祭に変装して、そのまま街を歩いたことがある――懲役五年の犯罪だ」

PC的に大問題な発言も数多く、私は書かないほうを選んでしまうが、しかし実はどうにも笑ってしまう。
厳格なカトリックが育むものは狂っていて奥深い。
(同じイエズス会でも、どうもパスカルの魅力はわからないんだけど)