フィギュア・スケートGPシリーズ、エリック・ボンパール杯

浅田真央、トータル得点179,80で優勝。
練習では跳べていたトリプルアクセルを本番で成功させることはかくも難しい。
伊藤みどりはこの年頃もっと跳べていたと思ってしまうけれど、真央は年齢が若いのに対して、周りの期待が高すぎるのがかわいそうでもある。
しかしやはり92年のアルベールヴィル五輪の折り、フリー演技残り1分という考えられないところで、驚異的な根性をもって成功させたみどりのトリプルアクセルを超える感動はない。
スコット・ハミルトンさんの言うとおり、What a gutsy performance!!!である。
私はラフマニノフの1番を聴くだけで、今でも涙が出る。
http://jp.youtube.com/watch?v=H7u0IdPBQIA&feature=related

ニコライ・モロゾフという振付師の登場は、フィギュア・スケートの演技構成をかなり根本から変えたと思う。
まず二年前、トリノ五輪時の荒川静香
あのキープの長い、高度なスパイラル・シークエンスで得点を上げまくったことで、他の上位の選手たちも皆倣うようになった。
そして高橋大輔、続いて安藤美姫のストレートライン・ステップシークエンス。
おかげでジャンプの真央さえも、アルトゥニアンの指導で上へ下へと大忙しの「鳥」のステップに勤しんでいるし、キム・ヨナにしたところでそうである。
ひと昔前の映像など見ていると、ジャンプやスピンの合い間はわりとみんなぼーっと、というか、すーっと滑るだけで休んでいるように思えてしまう。
伊藤みどりとほぼ同時期にスルヤ・ボナリーというフランス代表選手がおり、4回転が跳べた(ことになっている)だけでなく、シルヴィ・ギエムと同じく元体操の強化選手だっただけあってすごいバネとリズム感をもっていたが、彼女など今モロゾフに振付けてもらっていたら、相当すばらしくダンス感覚の演技が見られただろう。
http://jp.youtube.com/watch?v=Tr0HuJ_kwwg
(91年世界大会、40秒のところで4回転。着氷しているが回転が足りないと言われている。ちなみにこの甲冑みたいな衣装はあまり好きではなかった)
ボナリーはフランス海外県レユニオンの出身で、ネーグル・ブルー(青光りするほど黒い)というべき肌に模造ダイヤを散りばめたパウダーブルーやレモンイエローのオーガンジーの超豪華な衣装が氷上でよく映えた。
クリスチャン・ラクロワが衣装を担当していて、今から考えてもフィギュア史上もっとも洗練されたコスチュームを身につけていたと思う。
(日本などその頃すでにファッション大国だったのに、フィギュアのコスチュームに関しては野暮もいいところだった)。
ただしこの人は、力は人一倍あるのに、自分をコントロールして鍛錬していくことがあまりできないまま現役を終えてしまった気がする。
(今はグリーンカードを取ってアメリカでプロ生活をしているが、「闘牛をやめさせろ!」との嘆願書をサルコジ大統領に送るなど、最近はフランスでもお騒がせをやっている)
90年代初めはフランス女子も強かったが、ウォームアップの時などこのボナリーやレティシア・ユベールが他の上位選手をわざと妨害するようなことをして問題視されていた。
特にユベールという入賞クラスのチンピラ女の悪質さはマークされていたほどで、91年世界大会の練習時、わざと伊藤みどりに激突し、みどりのシューズがざっくり切れてしまう事件は衝撃だった。
世界の実力の頂点にあったみどりは激しく動揺し、本番でジャンプの時リンク外へ飛び出す事故を起こし、結局この年、銅メダルも取れない6位に終わった。
アルベールヴィルを復活のガッツィ・パフォーマンスで締めくくる前年のことだ。

男子シングル優勝、カナダのパトリック・チャンを「発見」する(SP70,89、LP144,05の214、94点)。
トリプル・アクセル、三連続のコンビネーションなどすばらしかった。
小柄でジャンプの切れがいいところは、カナダ往年のチャンピオン、エルビス・ストイコを彷彿させつつ、つま先のきれいな(佐野稔氏)優雅なスケーティングは織田信成くんを思い出させる。
真央ちゃんよりまだ後に生まれた16歳。男子でこれほど若手が大会を制するのは珍しい。