フレデリック・ワイズマン『パリ・オペラ座のすべて』

最初に観たワイズマン作品、『チチカット・フォーリーズ』(1967)はマサチューセッツ州精神障害者用刑務所を撮ったドキュメンタリーで、無造作に指に煙草をはさんだまま患者を「診察」する医者の姿が強烈な印象として残っている。
刑務所や学校、福祉施設といった近代の産物を淡々と撮り続けてきたワイズマン。
超大作『臨死』は、こちらも凍死しそうになりながら寝袋にくるまり、鬱々として、うつらうつらしてビデオで観た。
自身、弁護士でもあり、軍隊での経験もある。

そのワイズマンのバレエへの興味はどこにあるんだろうか。
なまじ他の作品を知っているだけに、近代により鋳型にはめられた身体とそれを生産する組織の観察なのだろうなとの先入観ももつが、相変わらず淡々としたロングショットの連続にあまりそういう印象もない。

160分の作品に方向性は見えないながら、ここにはパリ・オペラ座のあらゆる要素が詰まっている。
レッスン場での、舞台上のダンサーたちはもちろん、スポンサーを迎えるための首脳陣の会議風景、食堂の様子(オペラ座のダンサーはこういうものを食べているのか)、1500人いるというスタッフの衣装製作やアイロンがけ、髪結い、年金改革にかんする団員への通達風景、第二帝政時代に建てられた壮麗な建造物そのもの、知る人ぞ知るで私は知っていたがその屋上で飼われている蜜蜂と蜂蜜の採集…。

意外なことにダンスそのものも存分に撮られており、楽しめる。
ウェイン・マクレガー振付の『ジェニュス』をたっぷり観られたのは収穫。
はじめフォーサイスの何かかと思った。
くるみ割り人形』など古典はもちろん、マッツ・エック、アンジョラン・プレルジョカージュの作品も頻繁にあらわれる。

未見だが、ワイズマンはアメリカン・バレエ・シアターのドキュメンタリーも撮っている。
じつはわりとバレエファンなのだろうか。