『パイレーツ・オブ・カリビアン』とティム・パワーズ『幻影の航海』

カリブ海研究者の風上にもおけないと言われそうだが、『パイレーツ・オブ・カリビアン――生命の泉――』を劇場で観る。
映画としての評価はさておき、ジョニー・デップの動きや声を大画面で観賞できて満足だ。

今回の作は、ヴードゥーの世界とヨーロッパの聖杯伝説を合体させたようなテーマ。
といって台詞などで説明されるわけではないし、ディズニーらしい無菌化が施されているから、観ている人にそこが伝わるわけではないけど。
原作というか、そこから想をとったとされる『幻影の航海』On Stranger Tidesのほうが、18世紀のカリブ海ならではの作品世界を色濃く生み出していて楽しめる。
フィリップ・K・ディック賞作家のティム・パワーズが80年代に書いたSFファンタジー(ホラー?)で、少し前に古書で買ったけれど、今は映画にあわせて改題されており、映画のファンには評判が悪いようだ。

映画のほうの、ヴードゥーの神殿と生命の泉があることになっている島は、切り立った崖と奥深いジャングルが神秘的な、熱帯の高地らしい風景で、いったいこれはどこの島でのロケ?と気になった。
アンティユにしてはスケールの大きいこの風景、先日、Marc BarratのOrpailleurというギュイアンヌの金鉱労働者の犯罪をめぐる映画(この地域の映画の中ではけっこう面白かったが、字幕なしなのが残念)を観て、その風景とも少し似ていたので「ギアナ高地?」と一瞬思ったが、タイトルロールを観ていたら、なんとカウアイ島だった。
いわれてみれば、なるほどそうだ。
ハワイを材料に架空のカリブを創ってしまう!
さすがディズニーである。

ところで本作は、ペネロペ・クルス演じる実在の女海賊アン・ボニー(映画ではアンジェリカ)の登場がひとつの目玉になっているが、映画公開にあわせて増田義郎先生が新聞に連載されていたカリブの海賊についてのコラム、わりと面白かったなー。
プログラムにも、まとまった文章を書いておられる。