2004-01-01から1年間の記事一覧

読者

「ストーリー・テリング」という言葉が最近オブセッションになっている。小説とはたぶん他の人より親密に関わってきたが、私のなかでこの言葉の占める部分はそれほど大きくはなかったと思う。それがこれ以上先に進もうとするかぎり、このことを中心に考えな…

ウラガン・イヴァン

カリブ海の今年のハリケーンは10年ぶりのすごいものらしい。ベネズエラ、グレナダ、セントルシア、バルベイドス、トリニダッド・トバゴ、ジャマイカを直撃。死者数も50人に近づいている。気になって天気予報をずっとチェックしているが、今日明日はキューバ…

9.11

昨日は9月11日だった。もう三年も経ったなんて信じられない。朝日新聞の読書欄で、珍しく金井美恵子が9.11について触れている。「バーでお酒を飲んでいると店に入って来た男性の二人連れの客が、まるで日本シリーズでタイガースが優勝した時のファンのよ…

松浦寿輝(続き)

とはいえ松浦寿輝の小説を読んでいてしっくり来ない部分というのもあって、たとえば〈悪〉への魅惑というテーマがそのひとつである。人の憎しみを理解しない鈍重さに対する苛立ちというのは共感できるのだが、私は〈悪〉というのはわからない。 そして性差に…

まだオリンピック

暴漢に襲われたリマが立ち直って三位になったのは優勝にもまさるすばらしいことだと思ったが、それをブラジル人の偉大さとかいってしまうのは結局ニッポンがんばれというのと同根ではないのか。 『ニッポンがんばれ』の人も『ナショナリズムだから見ない』の…

ガラスの指輪

ガラス作家5人の展示会に行って、手づくりガラスの指輪を買う。子供の頃、縁日のヨーヨー掬いでいつも狙っていたのは透明のゴム地に緑や朱赤のペンキが散っているのだったが、まさにそのイメージ。 小笠原の多肉植物ハカラメの葉をもらう。葉から直接、別の…

飛び込み

結局今日もシンクロ・デュエット、陸上など見てしまう。夜、静かな気持ちで飛び込みを見る。筋肉のついていない男たちを見て、少しほっとする。飛び込みは好きだ。空中と水中の大きな差。高く飛び上がって回転し、細い筋肉のついた脚と上体をくの字にする。…

オリンピック鬱

閉会後には来ると予感していたオリンピック鬱が早くも来た。土曜日ぐらいから気配があり、女子マラソンを機にひどくなる。体調も最悪。スポーツだけ楽しんでいるつもりが、メダル・ラッシュとナショナリズムにつき合いすぎ、夜中にアドレナリンを出すような…

新聞記事

先週ぐらいの新聞に出ていた記事。カリブ海のドミニカ共和国から隣りのプエルトリコに移民しようと86人が乗ったボートが漂流し、二週間後に救助されるまでに55人が死亡した。食料も水も底をついたとき、女性の母乳が奪い合いになったという。大勢に母乳を与…

吉田都

スターダンサーズ・バレエ団公演『ジゼル』、神奈川県民ホール 劇場に行くのはいつも寂しさと場違いな気分との戦いなのだが、招待券をいただいたし吉田都なので、横浜まで見に行く。彼女を見るのは、4年ぐらい前のロイヤル・バレエ団アメリカ公演以来。 世代…

アテネ

オリンピック観戦が忙しく、急ぎの翻訳もあるのに睡眠不足でふらふらだ。今のところ観ているのは、サッカー(男女)、野球、ソフトボール、バレーボール、柔道、水泳、体操、卓球、重量挙げ…。そして今後は陸上やシンクロなど。シドニーを見そびれた憂さを晴ら…

バナナ

珍しく涼しいから懸案のバナナの植え替えをしようとするが、根が鉢に張りつめていて、分厚いプラスチックの鉢を壊さないかぎりできなさそうだ。 しかも奮闘している途中、またノウゼンカズラの唯一の蕾にうっかり触れて落としてしまう。触れなくても、たぶん…

エドゥアール・グリッサン

Edouard Glissant, « L’arbre grand arbre », « Fumée noire », « Eléments »(1947-54, Le Sang Livé), Poèmes complets, Gallimard, 1994 グリッサン詩研「saison unique」の集まりで、作家最初期の詩篇いくつかを読む。あまりに難解で手がかりがなく、消耗…

またデリダ

ジャック・デリダ『コーラ――プラトンの場』守中高明訳、未来社、2004年 名づけえぬものについて考えたいとクショ先生に相談したら、読めといわれたのがこれ。正直、ギリシア語、ギリシア哲学に通じていない身には難解すぎるが、何か自分に関係があることだと…

向日葵

二十ぐらい発芽した向日葵が花をつける前に全部枯れはてた。 最後の一本だけは固くまっすぐ伸びていて、昨日まで元気だったのに。 やっぱり花はだめ。

ピナ・バウシュ

ピナ・バウシュとヴッパタール舞踊団『バンドネオン』 ダンスを見たと思った。ボクサーの写真がかかり、古いタンゴが流れる舞台装置のカフェの中に私も住みたくなった。 乳首も見え背中もはだけた、だぶだぶのチュチュ姿のドミニク・メルシー(いつも悲しげ…

トニ・モリスン

トニ・モリスン『青い眼がほしい』(The bluest eye, 1970)大社淑子訳、ハヤカワepi文庫、2001年 冒頭の姉妹が種を蒔いたマリゴールドの芽が出ない逸話、ピコーラの不幸な妊娠とつながる、「わたし」(クローディア)の白人人形嫌悪と、ピコーラの大好きな…

ヨガ

自律神経失調による眼の疲れがひどく、何にもできない。ソファの角に前頭葉を押しつけると、少しだけ気持ちいい。無理してヨガのクラスに行ったら正解だった。夏バテ予防に集中力を高めるという「木立ちのポーズ」を初めて習うが、本当に集中力が高まって頭…

屋上

日本では経験したことがないほどの猛暑。疲れから来る自律神経の不調と重なり、炎天下を歩きながら、意識が分離したような気持ちになる。 日傘も帽子もなくしてしまったので、日焼けで顔が痛い。 授業の後、また屋上に上る。太陽にセラムも焼けるようだが、…

ピナ・バウシュ

日本をテーマにしたピナ・バウシュとヴッパタール舞踊団の新作、『天地 TENCHI』を観る。舞台は、巨大な鯨の尻尾と小島めいた胴体が浮かび上がる海面。時間を経るごとに白いものが降り積もる。 鯨が『古事記』や柿本人麻呂にも関係深いものとは知らなかった…

ノウゼンカズラ

朝方、しおっとしていたノウゼンカズラにたっぷり水をやると、俄かにしゃんとしたので安心したのもつかの間、30個ぐらいついていた固い蕾のうち、14個ぐらいがばらばらと地上に落ちてしまった。悲しい。 バレンシアオレンジ色の花を咲かせているのは一輪だけ…

ネペンテス

「外国語で書くと文章に穴があるから、その穴から気持ちが直接飛び出していくことがよくある。また、外国語では「巧みな言い回し」などというものに頼らないから、映像をはっきり出すしかない。型にはまった物の見方をうまく引用できないから、何もかも自分…

多和田葉子

多和田葉子『球形時間』(新潮社、2002)、『エクソフォニー――母語の外へ出る旅』(岩波書店、2003) 『球形時間』を読むのはもう四度目。『エクソフォニー』も、三度目ぐらい。『球形時間』の面白いところを伝えたいと思うが、英語だとノイローゼになりそうなほ…

屋上

授業の後、前から上りたかった図書館のルーフテラスに初めて上った。すぐ下の階は、太陽熱で温室のよう。屋上はウッドデッキの囲うなかに、セラム(万年草)が敷きつめてある。手つかずの雑木林と何百もの建売住宅の屋根を見下ろす。

マリオン・ヘンセル

マリオン・ヘンセル『雲 息子への手紙』祖母の命日。気分ひどく滅入り、体調も不良。一日なんもできなかった。落ち着くために、わざわざ送っていただいたマリオン・ヘンセルのドキュメンタリー・フィルム(9月公開)を見る。 かたちだけでなく、さまざまに色を…

水族館

仕事の帰りに、江ノ島の新しい水族館へ行く。塊のままめまぐるしく形を変える、銀のナイフみたいなマイワシの群れに感動。時々、群れからはぐれて焦っているイワシもなかなかいい。アカクラゲの長―い触手がつくる透き通った赤の軌跡にも見とれる。イルカのひ…

向日葵

向日葵の芽が出た。

ジャック・リヴェット

ジャック・リヴェット『Mの物語』試写でリヴェットの新作を観る。エマニュエル・ベアールが実は甦った死者なのである。ドゥペストルといい、今読んでいる途中のウォルコットの戯曲といい、ゾンビものづいている。といってもあまり関心はしなかった。ベアール…

デレク・ウォルコット

『デレック・ウォルコット詩集』徳永暢三編・訳、小沢書店 プラス Drek Walcott, The Antilles-Fragments of Epic Memory, 1992翻訳本所収のノーベル賞受賞記念講演の抜粋がよかったので、ウェブで全文を見つけ、読む。冒頭近く、粉々に割れた花瓶のメタファ…

またアニー・エルノー

『ある女』堀茂樹訳、早川書房、1993(1987) 続けてアニー・エルノー。自伝的素材をかなり取り入れたという母親についての物語。ブルデューを引き合いに出さないまでも、労働者階級出身である母親の、インテリ階級に「上昇」を果たした娘の眼を通しての描写…