ピナ・バウシュ

ピナ・バウシュとヴッパタール舞踊団『バンドネオン
ダンスを見たと思った。ボクサーの写真がかかり、古いタンゴが流れる舞台装置のカフェの中に私も住みたくなった。
乳首も見え背中もはだけた、だぶだぶのチュチュ姿のドミニク・メルシー(いつも悲しげ)がくり返すバー・レッスンのプリエ。最後はころがり胎児の姿勢になる。座った姿勢でペアになって踊るタンゴ、男が女の股を持ち上げて支え、女は直立したように動かないままのダンス、腰と腰を合わせ、床をすべるように円を描くダンス、歯をむき出して踊る群舞、拷問のようなバー・レッスン…。座りタンゴのダンス教室があれば行ってみたい。
鼻にティッシュを詰めた男が無表情な男たちに、「マリアといって何を連想しますか」と聞いてまわる。ドミニク・メルシーの、我慢した後のおしっこの話。本物のネズミに向かって歌うアリア。背中をかいてもらう女、首をさすってもらう女、鼻を触ってもらう女、みんなヒステリックに触り方の注文をつけている。
そしてやってみたいのが、服をはだけた肩と肩、ふくらはぎとふくらはぎ、かかととかかと、耳と耳をあわせるキス(性交?)。
床にころがって叫ぶ女を一列に並んだ椅子に座って眺める。照れながらも誇らしげな女に皆が喝采を送る(先週、埼京線大宮行き最終で同じ車両だったダンサー、いつも照れながら自慢げな演技を割りあてられている)。喝采の熱狂の裏で泣き叫びの声がしている。胸がいっぱいになって、泣いてしまった。
初演は1980年12月21日。その日のこと、というか、その周辺の日々の気分を遠いことながらよく記憶しているので、その時にこの同じ舞台が上演されたのだと思うと不思議な気持ちになる。