デレク・ウォルコット

デレック・ウォルコット詩集』徳永暢三編・訳、小沢書店  
プラス Drek Walcott, The Antilles-Fragments of Epic Memory, 1992

翻訳本所収のノーベル賞受賞記念講演の抜粋がよかったので、ウェブで全文を見つけ、読む。冒頭近く、粉々に割れた花瓶のメタファーが深い。完璧なすべすべの花瓶より、割れた複数の断片を繋ぎ合わせて創りなおした花瓶のほうが、その愛のほうが、どれだけ強いことだろう。修復されたその箇所には白い傷が残る。隙間ができてかみ合わない破片の数は、その分だけの痛みであり、思いやりである…。もちろん、先住民、黒人、ヨーロッパ人など複数の人種が混じりあい、奴隷制を経て公けの歴史によって自らの歴史を奪われたアンティーユの島々のことを言っているのである。