幻のライヴ

長らく続いた煩雑な仕事を終え、近所の神社境内にあるカフェでビールを飲んでいると、小さな声で歌が聞こえる。覗き込んだら、テラス席でジョアン・ジルベルトの弾き語りをしている女性がいる。たまたまお客さんとして店に来ていた山本のりこさんというプロのボサノヴァ・ミュージシャンだった。緑のなかのテラスの気持ちよさに思わず歌いだしたそう。他のお客さん数人も興味を示し、そのままライブへ突入。優しく囁くような声にうっとり聞き惚れてしまった。
数人のお客のうち、前の席でワインを飲んでた男性がノリノリで「ソ・ダンソ・サンバ」のリクエストなんかをしていたのだが、何とこの神社の宮司さんとわかる。自分もギターをやってるそうで、洋楽に詳しくお洒落な感じでびっくり。山本のりこさんや他のお友達とも楽しくおしゃべりし、思わぬハプニングにホクホクして帰宅。
何だか近所で楽しいことの起きるここ数日である。昨日は昨日で、うちの近所の道路脇には何箇所かトランペット・リリーのみごとな植え込みがあり、開花の時期にはいつも羨ましく指を咥えているんだけど、そこを通りかかったら「ご自由にどうぞ」との張り紙とともに挿し木用の枝が手提げ袋に入れてあるのをみつけ、思わずゲットしてホクホク。それからそれほど話したことのない隣の奥さんと、イタリア映画についておしゃべりで盛りあがったのも楽しかった。
それにしても下読みに続く多量の論文添削で疲れた。内容はともかく一本コワかったのは、紙全体に茶色いシミが飛んでおり、ミミズみたいな文字で「汚してもうしわけありません、指のタコから血が出てしまいました」というもの。何も書かないでくれたら血だと思わなかったのにコワ過ぎる、というかキモ過ぎるではないか。
ともあれ仕事も一段落し、ようやくゆっくりサッカーが見られる、けど、期待していた日本も、期待してないけどシンパシーを感じていたフランスも全然チグハグな感じで、その他の国の試合も含めて、あんまり胸のすくような思いをしていない今回のワールドカップ。私が見た中で数少ない例外は、栃木で見たアルゼンチン×セルビア・モンテネグロかな。前回大会ではセネガルが好きなチームだったが、今回はコートジボワールがお気に入り。フランスは本当によくない。「エドゥアール・グリッサン『アンティーユのディスクール』における〈モルビード〉〈アリエナシオン〉概念とフランス代表チームの現在」という短い論文が一本書けそうだ。
サッカーにはそれほど詳しくない私だが、それでも見れば見るほど選手の特徴や布陣の違いなどもわかってきて面白くなる。ハマってしまう人の気持ちは大いにわかる。でもこんなに時間を食うものにハマったらたまらない。スカイパーフェクTVなど申し込んでしまわないように気をつけようと思う。
それにしても男子というのは野球やサッカーには一過言あり、それなりに語れるものという先入観が私などあるのだが、そのわりにはひとつの試合を連携としてとらえたコメントをしている人は少なく、個別の選手のダメさを指摘して悦に入ってるような意見が多くて馬鹿馬鹿しい。「戦犯」とかいうのはいい加減にやめてほしい。
さて、ガーナ×アメリカ戦、チェコ×イタリア戦、ブラジル×日本戦を続けて見るとするか。巻が出るのが楽しみだなー。