普通の日本の若者にフランス語圏の広がりを意識してもらうには、やっぱりサッカー代表選手だろうか。フランスのラップじゃマイナーすぎるし、暴動といったってニュース見てないかもしれないし。
ジダンアルジェリア系は超有名だが、調べてみるとアフリカ、東欧、南米までわくわくするほど世界中から集まっている(といっても現国籍はもちろんフランス)。わくわくするのは他人事だからで、もちろんこれは植民地主義と国家間の経済格差の結果であるのは間違いない。
一目でわかる黒人系では、マルセル・デサイー(ガーナ)、クロード・マケレレ(ザイール)、パトリック・ヴィエラセネガル)、ジブリル・シセ(コートジヴォワール)がアフリカ出身(後ろ二国は19世紀後半から20世紀半ばまでフランスの植民地)だ。といってもシセはアルル生まれの移民二世で、コートジヴォワール代表監督の息子。同じ移民二世でも一回り上のジダンみたいな苦労人というわけじゃない。
古い選手では去年引退したクリスチャン・カランブーがニュー・カレドニアの出身。独立問題に揺れる太平洋の島である。新しいところでは、インド洋の海外県・レユニオン島出身のフロラン・シナマ・ポンゴル選手がいる。
そしてわれらがカリブ海がすごい。つまりグアドループ、マルティニック、仏領ギアナの三海外県だ。まずグアドループは、リリアン・テュラムティエリ・アンリミカエル・シルヴェストルシルヴァン・ヴィルトール(マルティニックの説も)、ウィリアム・ガラ。マルティニックは、ニコラ・アネルカ、ジョナタン・ゼビナ、フィリップ・クリスチャンヴァル。仏領ギアナでは、ベルナール・ラマ、フロラン・マルーダ。何て多いんだ。
大御所のテュラムは、フランス政府の同化高等弁務官も務めている。海外県のことをやってる私などは「同化」というとどうしても否定的なニュアンスで受け取ってしまうが、年末の暴動の際には移民の扱いに関してかなり強烈なサルコジ批判をしていた。アンリはいかにもアンティル(カリブ)人丸出し。私は創作で色気はあるけどダメ男っぽいカリブの男を書くときは、アンリをモデルにしている。それに対して、いかにもアフリカっぽいと思うのはシセ。アパレル・ブランドをやったりモデルと結婚したりとちゃらいところもあるけど、獰猛な獣のような感じがまさに「カリバン」のイメージだ。
同じヨーロッパ大陸でも、リザラズデシャンバスク出身。ロベール・ピレスはスペイン/ポルトガルジョルカエフとボゴシアンが旧ソ連アルメニアダヴィド・トレゼゲは南米アルゼンチンの出身。
こうなるとずっとフランスにいる家系の人がむしろマイノリティみたいだ。バルデスとかクーペ、サニョル、少し前ではブランとプティなど。
ちなみに、ワールドカップ・ドイツ大会で対戦するトーゴ第一次大戦後イギリスとフランスが共同統治した国で(1960年独立)、公用語はフランス語。同じくスイスもジュネーヴを中心とする地域ではフランス語が話されている。のんびりのどかなフランス語で、早口のパリジャンたちには田舎っぽいと馬鹿にされているが、日本人には聞き取りやすい。
こうして見ると17世紀の旧植民地から19世紀の新植民地まで、フランスがかつて支配化に置いたほとんどの地域が網羅されているのだとわかる。抜けているところを一応コメントしておこう。フランス最古の植民地(16世紀)だったけれど、サッカーが全然盛んじゃないカナダのケベック州。それから仏領インドシナ、つまり今のヴェトナムやカンボジアも19世紀に植民地だった。要するにそこが行き止まりだったわけだけれど。南極の植民地のことまで言わなくてもいいだろう。あと、タヒチマダガスカル他は、それぞれ太平洋、インド洋代表が出てきているからいいということで。
以上は学生の動機づけとしてネタにできるかなあと思っているのだが、ついでにFFF(フランス・サッカー連盟)のサイトで国内のサッカー・エリート教育のシステムを調べていたら(何の目的もない)、ついついのめりこんでしまった。フランスでは70年代、すでにサッカー選手養成学校はあったようだけど、90年代半ばの低迷期に大きなテコ入れがされ、優秀な移民の子がたくさん入るようになったらしい。養成学校も一種類じゃなくて、学業と両立するタイプとサッカー優先タイプとか、クラブ・チームとくっついているところとか、基本的に地域から推薦されなきゃだめなところとか、女子のエリート校とか、若年層向けとか、年齢、性別、目的、レヴェルによって同時並行的にたくさんある。入学は12歳ぐらいから。具体的には、centre de formationとsection sportive(scolaireやelite,regionalの区別がある)の二通りの教育機関に加えて, 若年向けのpole espoirなど。section sportiveの方に入っていても、最終的なゴールとしてはcentre de formationの頂点の組織(男子はプロのクラブ、女子は国立のCNFE)を目指すみたいだ。クレールフォンテーヌにある女子のエリート校CNFEは、サッカーのエリート教育をするかたわら、高校レヴェルだけでなく大学学部レヴェルの学問まで学べるそうだ。すごいな。