異次元ロマンスカー

ロマンスカーの切符というのは、券売機で買うと何号車になるかお任せである。
で、私の心のなかのロマンスカーおみくじでは、1号車が凶。
新宿駅で最果てに到着するから、そう決めたのだ。
ところが初めて1号車をひいてしまい乗ってみたところ、とんでもなくすごいことがわかった。

1号車というのは新宿行きの場合最後尾にあたり、展望席がついている。
そこでは後ろ向きの姿勢で、線路を遠ざかってゆくことになる。
視界の三方を夜闇に囲まれての乗車は、まるで銀河鉄道の夜
さまざまな曲線を描く線路が細い三日月に照らされ、どこまでも追ってくる銀色の蛇のようだ。
まあ、そんなことは誰もがいっているのかもしれないけど、線路もすれ違う電車も駅も、いつものように横から見るのと全然違って、何もかもが新鮮ですばらしい。

特にトンネル。
いつもはトンネルなんて、急に暗くなってうるさくなっていいことなどひとつもないのに、通るあいだも抜けてからも、出入口の長方形がずっと見えているその光景が面白すぎてずっと見入ってしまった。
徐々に小さくなる長方形がいい。
電車をまたぐ鉄の門みたいなのをいくつもいくつも通り抜ける、その連続模様もすごい。
なんていう名前だろう、あれ、こういうものの名称を知らないと、小説の描写はできないのだなあ。

そして特に駅。
経堂より神奈川寄りの小田急線の駅は美しい。
ふたつのプラットフォームの屋根がまったく同じ高さで対称的なゆるやかな曲線になっていて、遠ざかりながら見るときれいなかまぼこ型。
もうちょっと角度のあるかたちの駅もある。
エドゥアール・マネの『サン・ラザール駅』みたーい!と思う。

興奮するような情景が続いているところへ、もともと三半規管が弱くて後ろ向きが得意でないので眩暈もしてきて、旅の最後のほうは陶然たる心持ちだった。
お酒も何もいらない(あってもいいかも)。
これで特急料金550円はお得だと思う。