須賀敦子からヤマザキマリへ

ヨーロッパの石の文化というものに対して、個人的に思い入れなど全然ないのだが、それは歴史の年号がどうとか、様式がどうとか、伝統がどうとかいう話の文脈に組み込まれている時のことで、そこに長く身を置いた人、なおかつすごい感受性をもった人の目というか手というか筆を通せばこんなにも魔法のように魅力的に見えてくるのだなあと『時のかけらたち』を読んでいて思った。

「石をまるでゴムのように柔軟に使って」とか、街路の上を「クラゲみたいに」「漂っていた、じぶんの影みたいなものがなつかしい」とか、そういう石や街ならば興味がわく。
イタリアの建造物描写を翻訳するときの鴎外の格闘話も面白い。

そしてついその延長で、ヤマザキマリの『テルマエ・ロマエ』を読み、抱腹絶倒。
(古代)ローマ人の高慢さで平たい顔の「奴隷」部族を見下しつつも、そのすぐれた浴場文化(含:富士山と松の絵やフルーツ牛乳ケロリンの桶)に驚嘆し、2000年近く遡った自国に戻っては模倣しつづける建築技師ルシウスと現代日本のじいちゃんばあちゃん、OLらとの交流がおかしすぎて、その部分だけ何度も読んだ。
9月発売の第2巻が待ち遠しいが、これ以上この関連のネタを思いつけるのか。

作者は10代の時イタリアに渡って美術学校に通い、今はポルトガル在住、と思ったら、シカゴに住んでいるようだ。
日本以外に身を置いて書く作家というのは時々いるけれども、漫画家は珍しいのではないか。