魔のオルリー・シュッド、極悪非道のエール・カライブ2

チェックインの後、まずは日本の家族に電話し、日本向けのフランス外務省ウェブサイトを調べてもらったが、当然ながらそんなビザの規定についてはどこにも書かれていないという。
それからパリの日本大使館に勤める親しい友人に電話。
領事部の人に相談してみると請け合ってくれ、間もなく折り返し電話があって、今すぐ大使館まで来るように言われる。
もうフラフラだったけれど考えつくかぎりの夏服を重ね着した奇妙な格好で4度もメトロを乗り換え、小1時間かけてクールセルの大使館まで行った(来たことがある場所なのに、前と同じく駅から20分ぐらい道に迷った)。
領事部には日本人の女性と日本語ペラペラのフランス人女性がいて、こちらの話を聞くと「そんなことは絶対にありえない」と断言する。
そしてすぐさまフランス人のほうが奥へ行ってエール・カライブの市内にあるオフィスに電話し、抗議してくれる。
しばらくして窓口に呼ばれた。オフィスの担当者はビザ・シェンゲンの規定をもともと了解しており、私の顧客番号に当人にビザが不要な旨、コメントを残すと約束したそうだ。
さらに領事部の人は、外国人に必要なビザにかんするフランス外務省の規約文書のコピーを渡してくれ(もちろん日本人にビザはいらないと書いてある)、「あとは明日朝一でオルリーに行って、このコピーを武器になんとか自分で交渉してみてください」とのことだった。
まだ解決したわけじゃないけれど、なんと心強い!
さっきまでの恐怖とある種のマインド・コントロールがかなりの度合いで溶けてゆく。

ところで「Visa Shengen」というのは通称のようで、フランスを含むヨーロッパ24カ国を指す「espace Shengen」からその名が来ているようだ。要はヨーロッパとその領土に立ち入る際、ヨーロッパ人および外国人にかかわってくるビザのこと。
フランス外務省公式ウェブサイトの「Les étrangers titulaires d’un passeport ordinaire dispensés de l’obligation de visa」の箇所にその詳細が書かれている。
http://www.diplomatie.gouv.fr/fr/article_imprim.php3?id_article=70210
もちろんここには、フランス本土(1)でもフランスの海外県および海外領土(2)でも、90日以内の短期滞在の場合、日本人は韓国やメキシコやアメリカ合衆国シンガポールやオーストラリア人と同様、ビザが必要でないことが明記されている。

当然のようにその晩熱が出てしまい、翌朝動けなかったら終わりだと思ったが、パブロンが効いたのか、朝になると熱がひいていて助かった。
前日とまったく同じようにオルリー・シュッドのエール・カライブ・カウンターを訪ねる。
「今日一番の便に乗りたいんですけど」と言うと、昨日もいた男性職員がこちらの顔を認めてうって変わったような態度。外務省文書のコピーを出すまでもない。
そこからはなんともスムーズに出発できた。
搭乗カウンターに昨日の男がいたら抗議しようと思っていたが、全員の顔ぶれが違う。
パスポート・チェックの時ひとりが「あ、日本人はビザいるんだっけ」と隣の職員に呟いたのですかさず横から「スネパネセセール!」(いらないんだよ!)と鼻の穴を膨らませて噛みつくように言ったが、聞かれた職員はこちらの声を無視して「日本人はいらない、いらない」と軽く答え、嘘のように感じよく通してくれる。
昨日の事件について全員に通達がいっているとは到底思えないのだが、搭乗手続きの職員もなぜか全員にこやかで、みんな笑顔で「ボンボワイヤージュ!」。
どうしたことか、一日違うだけで世界が変わっている。

ということで、一日遅れでマルチニックに出発することができ、心配していた宿主も二度もラマンタン・エメ・セゼール空港まで迎えに来てくれた。ここからは楽しすぎる一週間が始まるのだが、11日にパリに戻って再び怒り狂うことになる。