観戦史上最高レベル:女子フィギュア・フリー

トリノでもソルトレイクでも長野でも、ここまでハイレベルな試合は見たことがない。
キム・ヨナは頭抜けた演技を見せ、浅田真央はミスをして結果的にスコアには差がついたが、銅メダルのジョアニー・ロシェット長洲未来安藤美姫ラウラ・レピストレイチェル・フラット鈴木明子まで含めて、粒ぞろいでテンションの高い試合だった。
荒川静香は今日の試合ならメダルを取れなかっただろう。

キム・ヨナ浅田真央のような、力の拮抗した二人の接戦というのも思えば見たことがなく(高さと飛距離のあるジャンプ・コンビネーションと妖艶な表現力を兼ねそなえたキム・ヨナが、この局面では明らかに勝っているとはいえ)、ビットとトーマスの「カルメン」対決にしても、ケリガンとハーディングのいかがわしげな争いにしても、全能力を賭けたようなこういう緊張感はなかった。

ヨナの飛躍的な成長には、コーチのブライアン・オーサーが大きな貢献をしていると思う。
ヨナが真央の後追いでトリプルアクセルにこだわり続けるのを、何年か前方向転換させたのがこの人。
自身カルガリーでのボイタノとの対決の折り、当時の男子の最高技であるこのジャンプの失敗で銀に甘んじ、その反省から3回転−3回転で高得点を稼ぐヨナのプログラムを組んだそうだ。
ショートプログラムの「OO7」で見せたマーケティング能力もすごい。
万人受けする曲選びはもちろん、ジャンプなど演技の頂点と馴染みのあるハイテンポのサビの箇所をうまく一致させ、観客を一気に熱狂させるといった工夫が周到に凝らされている。

一方、タチアナ・タラソワコーチを中心とした「チーム真央」は、真央の潜在能力を本当にうまく引き出したのかというと疑問を感じる。
あのすばらしいクリモワ/ポノマレンコを指導したといえば名コーチには違いないのだろうけれど、ラフマニノフの「モスクワの鐘」は重厚過ぎて、あまり真央の持ち味には合っていなかった。
「仮面舞踏会」も「モスクワの鐘」も、曲そのものと振付の両面含めて、カタルシスに至れないプログラムだと感じる。
ISUのウェブサイト掲載のヨナと真央のスコアを比較すると、エレメンツの方でヨナの方が少しずつGOEが勝っているのと同時に、5コンポーネンツもすべて真央の方が低い。
実はロシェットよりも全部低い。
5コンポーネンツのうち、Choreography、Interpretation、Performance/Executionなどは、本人よりコーチ・振付師の構成力にかかってところが多いのではないか。

ジョアニー・ロシェットは大変な状況下にもかかわらず張りつめて集中力を失わず、特にショートの「クンパルシータ」がすばらしくて一緒に泣いた。
安藤美姫はショートで3−3に挑んだのも好ましく、全体的に落ち着いてできることをすべてやった上での順当な結果だと思う。
鈴木明子のストレートライン・ステップシークエンスも、いい時のこの人がそうであるように、今日も胸を打たれるものがあった。

びっくりしたのが長洲未来の成長ぶり。
若い選手がショートで切れのあるいい演技をすることはあることだけれど(今回でもマカロワゲデバニシビリ)、今日のこの最終滑走で、ここまですぐれた技術力と伸びやかな表現力を併せ持った「カルメン」を見せるとは思わなかった。
あまり決め手のないアメリカの最近の選手の中では、一番大物感をかんじさせる。
1993年生まれの16歳。楽しみだ。
それから入賞には至らなかったが、軽々と完璧な演技をしたカク・ミンジョンもポスト・キム・ヨナとして期待できる。

キム・ヨナ Free 150,06/Total 228,56
Executed Components:Choreography/Composition 8,95 Transition/Linking Footwork 8,60 Interpretation 9,10 Performance/Execution 9,15 Skating Skills 9,05

浅田真央 Free 131,72/Total 205,50
Executed Components:Choreography/Composition 8,45 Transition/Linking Footwork 7,85 Interpretation 8,55 Performance/Execution 8,50 Skating Skills 8,55