ハナクソ日和

ドリル音がダダダというたび、ビクッとして胸が苦しくなるので、カフェ・ノマドと化している。
午前はとるものもとりあえず、家から320歩の珈琲館(最寄り)。
12時から1時はつかの間静寂が戻るとき、その間にあわてて食事や雑用を済ませる。
地震や噴火の被災者が時間決めで自宅に戻るみたい。
1時を過ぎたら、すべてを詰めたリュックをしょってまた別のカフェ――500歩のベローチェか1200歩のタリーズかーーと思ったけれど、コーヒー・紅茶でたぷたぷなので数千歩の日仏図書館に行く。
フランス風の薄暗いスポット照明下で勉強するのはどうも好きではないんだけど。
黒い瞳のフランス好きの日本人の皆さん、ほんとにそれが心地いいんですか?

ところでびっくりしたことが。
少し離れた向かいの席で、とてもきれいでお洒落な女性がずっと鼻をほじっている。
ほじったものを図書館の本のページに落としている。
驚愕のあまり、見入ってしまった。
しかもその時私が読んでいた詩句は奇しくも、

sous le regard acerbe de ta mère offusquée
et à la gêne polie de tous
farfouillé le nez
d'un doigt preste et chanceux

つまり、鼻をほじっていて、怖いお母さんに叱られるという詩であった。
ギュイアンヌ出身の詩人レオン=ゴントラン・ダマスの詩。
サンゴール編の『ニグロ・マダガスカル新詞華集』所収。

マダガスカル人の名前ってなんだか楽しくて好きだ。
特に「ラベマナンジャラ」とか。
しかし目次のページ、(前々から知ってはいるけどあらためて)

みごとにヤローばかりだな。

ところで修論提出まぎわも、大工事のさなかだった。
その時は14階に住んでいたので、つい油断してブラインドも閉めずに寝ていると、窓越しにゴンドラに乗った人がガーっと降りてきて、目が合ってしまうのだった。
今はふと気づくとすぐ隣のカーテン越しに人がいて、いきなりベランダでドリルをやり始めたりする。
因果なことである。