オバマ前夜

テレビで知ったが、オバマ氏の影響で、自分のアフリカ・ルーツを知ろうというアメリカ黒人が増えているらしい。
元奴隷の彼らに家系図などあるはずもなく、ほとんどの人々は自分の出身部族や出てきた土地を知らないという。
街頭インタビューで起源を尋ねられた大学生ぐらいの女の子は「えっ、知らない」といって隣にいるお母さんに助けを求め、お母さんは「アフリカよ、アフリカ」と答えていた。
「それくらい知ってるがな」と娘が心の中で突っ込んだことを期待したいが。
ポール・マーシャルのPraisesong for the widowという小説の中に、アメリカの黒人女性がカリブ海グレナダに行き、そこの人々にどこの部族の出身なのと尋ねられてまったく答えられず、ちょっと馬鹿にされた場面があったことを思い出した。

ところが今や、DNA鑑定でそのつきとめが可能となった。
希望者たちは頬の粘膜を提供し、結果を待つ。
その様子はショウアップされ、壇上のセネガルの地図の前で「つきとめ」に成功した家族たちが拍手を受け、大喜びしている。
同じく「つきとめ」られたある女性は、「ガーナなんて金が採れるところでうれしい!」とよくわからない喜び方をしていた。
文字として書き残されていなかったのに、DNAには書き留められているというその驚異。
同時に、そんな風に起源をつきとめていくことが必要なんだろうかと個人的には疑問に思いもするのだが、とにかくテレビに出てきた人たちは、みんなものすごく喜んでいた。

ところで20日にはバラク・オバマが大統領に就任する。
オバマ氏は目下のところ、国内の雇用や人事問題で手一杯で、イスラエルパレスチナについては「静観」を決め込んでいるが(そんな場合ではないのだが)どう動くつもりなのか。
私は「アメリカ合衆国大統領」という機能を果たせるということじたい、共和党であろうと民主党であろうと黒人だろうと女性だろうと、ある限界内の行動しかとらないということを意味すると悲観的に思ってきたのだが(オバマ氏は昨年夏、エルサレムは不可分の首都と発言していた)、この先入観をぜひともいい方に裏切ってほしいものだ。