踏み切った瞬間、「入水ルート」が見えてくる

アフォーダンス佐々木正人先生による飛び込み選手・寺内健へのインタビュー(『時速250kmのシャトルが見える―トップアスリート16人の身体論』)。
今日、男子板飛び込み決勝。

佐々木 先端の縁ぴったりがいい。
[…]
寺内 「これは来た!」という感覚です。踏み切った瞬間にルートが浮かぶんです。決められた道、「もうここしかないやろ」という道ですね。うまく踏み切ったときは身体が反応してその道どおりにいく。

佐々木 飛んだ後には、どういう修正ができますか。
寺内 ひねり終わった後のスピードをいつもより速くする。えび型をもっと絞めて小さくする。入水時に背筋を使って足を上まで持ってくるとかです。空中での修正とかを覚えて、結局、このルートしかないというところを見つけるんですよ。[…]そうやってここしかないルートができる、見えてくるんです。

飛び出すとき、身体のどこを意識していますか。
寺内 下半身ですね。あと胸を入れます。錘みたいにぐっと乗せてあげる。腰、お尻、ハムストリングから四頭筋まで全部を落として、足で板を摑む。離れるときは、つま先の爪でぐっと伸ばす感じで返します。上半身は手を回すんですが、そのとき肩にはいっさい力を入れず、指先で大きな円を描くように、爪の先だけ意識してます。

佐々木 最近の技は「前逆宙返り2回半、1回半ひねりえび型」という演技ですね。落ちながら空中では何を見てますか。
寺内 この技は最初に宙返りを1回転半する間に、1回半ひねり終えて、そこからもう1回転宙返りする技です。ひねっている間は自分の右足の外側、踝を見てます。そのあとは「えび型」という姿勢なんですが、そのときはひざ下の足の間から水が見えます。「見る」という意識はないけれど、映像として記憶に残ってます。
佐々木 水面の見え方で自分の姿勢はわかりますか。
寺内 もう踏み切った時点、空中に出た瞬間にわかります。

佐々木 手先が水に触れる瞬間の感じはどうなんですか。
寺内 あんまりないです。僕は手を組んで重ねているんですけど、水に当たったらすぐに横にバッと開くんですよ。入った直後にぐっと掻き分ける。そこでできた窪みのところに身体を入れていく。

佐々木 水の感じは競技場で違いますか。
寺内 全然違います。寒いほど硬くてそのほうがノースプラッシュしやすい。張っている状態を掻き分けやすいですから。柔らかいと摑みにくいんですよ。たとえば大きな大会で室内冷房が効いていると、水面が硬く摑みやすいと思ったら、水中は柔らかくてドロンとなっている。これはやっかいです。