東京の夏音楽祭「サハラの声〜トゥアレグの伝統音楽」:草月ホール

たいていハズレなく充実した時間を過ごさせてくれる東京の夏音楽祭。
今年はアルジェから2000キロ南に下ったサハラ砂漠を遊牧するトゥアレグ族の音楽を聴く。
女性しか演奏してはいけない一弦楽器イムザット、たて笛タザマルト、打楽器ティンデ、ジェリカン(石油缶)、それにギター、コーラス、手拍子が加わった、とても素朴で楽しい演奏だった。
印象的だったのが、女性たちが舌をすばやく左右に動かしながら高音の声を振動させる声技。
記憶がないけれど、友人によれば、フランツ・ファノンの『革命の社会学』にもアルジェリア独特の文化として記述があるとか。
あとでこっそり練習してみたが、舌を左右に動かすというのがあまりにむずかしく、一朝一夕でできるものではないとわかる。

楽器も素朴なもので、イムザットは巨大な瓜に山羊の皮を張って作り、ヘッドや弦には夾竹桃が使われている。
打楽器のティンデ(音楽ジャンルの名前でもある)は、日中は料理用の臼としてヒエやアワを搗くのに使い、夜になるとそこに山羊皮を張って打楽器として使用するというのが面白い。
叩き手たちは、たえずそこに水をふりかけながら演奏していたけど、どうしてだろう?
乾燥した砂漠から湿気の高い日本に来たのに必要なのかな?

最後、サハラの黄金の砂を敷きつめた舞台に引っぱり上げられ、独特のとび跳ねるダンスの相手をつとめる。
アラファト議長みたいな恰好の踊り手の人から剣を掲げさせてもらったりしてとても楽しかったが、重い砂の上を8,5センチのウェッジヒールで跳ねつづけるのはあまりに消耗が激しく、途中で「疲れてもうだめ、やめてもいい?」と何度か日本語でいってみたものの相手に通じるはずもなかった。
(何語を話すのだろう、彼らは。フランス語もたぶん通じないと思う)
帰宅した今も、ふくらはぎがものすごく重だるい。

そういえば去年も舞台に上げられ、巨漢の女性司祭にブードゥーの儀式をしてもらって、花や葉っぱや強い香水を混ぜ合わせた神秘な液体を頭や顔にグシャグシャともみ込まれたのだった。
なんだかもはや草月ホールは(演じ手として)おなじみの舞台。
そしてまたひとつ、夏の楽しい想い出が増えた。