シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2007(神奈川県民ホール)

ラッセル・マリファントを再発見する。
2年前、ギエムがソロで踊った「TWO」は、鋭い腕の動きと光の効果が印象的な作品だった。
前も書いたかもしれないが、20世紀初頭の舞踊家ロイ・フラーの舞台を連想させる。
(腕を上下させると光の軌跡のようなものができてゆく古い映像を、私はいったいどこで見たのだろう?修士のとき、マラルメロイ・フラー論を読んだ気がするけど、映像を知っていたので理解しやすかった)
ただあの公演では、ベジャールボレロ」のあまりの神話的すごさの前に、前座的扱いでかき消えてしまったのだ。

「PUSH」はギエムとマリファント本人がふたりで踊る。
ふたつの体がどこかしらでつながり(背負う、重なるなど)一体となってできる造形が、緩やかなスピードで変化してゆく。
海野敏氏は「キリアンの振付が動きの節目に現れるポーズへのこだわりを感じさせるのに対して、マリファントの振付は、動きそのものの連なりが貯め込んでゆくエネルギーへのこだわりを感じさせる」というが(プログラム解説)、なるほどそうかもしれない。

ラッセル・マリファントは1961年、カナダのオタワ生まれ。サドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団出身ながら独立系のキャリアを積んだ振付家
振付にヨガ、カポエイラ太極拳などを取り入れ、生物学、解剖学も学んだ。
そのあたりの傾向が、私をとらえる作品を創りあげているのかもしれない。
これも前に書いたかもしれないが、ギエムの「ダンサー人生のエコノミー」は完璧だ。
彼女のほうがマリファントの作品に感銘を受け、共演を持ちかけたということだけど、このダンサーには自分が今の局面で踊るべきものを、つねに瞬時に見抜いていく聡明さがある。

シンプルな衣装がすばらしい。
60年代ふうシャンパン・カラーのミニドレスに、アタックNo1ふうの膝サポーター。
他の人が着たらどうにもならない組み合わせだが、鍛え上げられ筋肉の文様が全身に浮かびあがったあの体、オレンジ色のショートヘアには何とも映える。
個人的には、これまで見たギエムの衣装のベストとも思う。

本当は「白鳥の湖」を見に行ったのだ。
93年、ローラン・イレールと踊った全幕でのオーラと勢いを、断片でもいいからもう一度味わいたい。
…それが、え、たったこれだけなの?
というくらい短い20分であった。
もちろん直線過ぎる超人的なポーズだけでも十分にすばらしい。
でもどうせなら、オデットではなく黒鳥オディール姿での超絶技巧、爆発するような32回転グラン・フエテ・アン・トゥルナンを再現してほしかった。
そんな無茶はしないところがギエムの賢さなんだろうけど。

インド古典舞踊のダンサー、アクラム・カーンと共演し、ギエムのソロ部分を林懐民が振付けた作品『聖なる怪物たち』をぜひ見てみたい。
上演の企画はあるようだ。