伊藤真『憲法の力』

日本国憲法擁護の意見にもいろいろあって、内田樹の「矛盾があるからすばらしい」とか、中沢新一天皇・日本人ハイブリッド論とか、知的に華麗で興味深いけれど、法律のプロが書いたこの本、明快で面白く読んだ。
まずは憲法というのは、国民が守るべき法律と異なり、国家権力の側が守らなければいけないものであり、伊藤氏(司法試験業界ではイトマコというんだそうだ)の定義によれば「国家権力を制限して、国民の人権を保障するもの」。
民主主義の国では多数派によって作り出されるにもかかわらず、多数派に歯止めをかけ、少数派の意見や権利を保障するのが目的だという。
それから日本国憲法が他のどの国の憲法より「ステージが上」であることを示す前文の中の「諸国民」への言及。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」。
われらが信頼するのは外国の国家でなく、あくまでそこにある人々(peace loving peoples)であり、その上でさらに「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と続く。
いや、ほんとにすばらしいな。
伊藤氏もこのpeoplesの発想がすばらしいというのだが、さらに「今の憲法は人類水準ですが、もう一段上の、地球上のすべての人間、動物、植物など、あらゆる生命と共通点を見いだすことができれば、より大きな地球水準の憲法として環境問題などを本気で考えられるようになると思います」とまで言ってしまう点、実務派(司法試験塾のカリスマ)なのに相当に変わっていて面白い。
集団的自衛権と集団安全保障の考え方の違いもなるほどと思った。
同盟国だけで結束し、それ以外は敵と見なす排除の論理にもとづくのが集団的自衛権なら、共同で問題を解決しようとし、そのためには自国の主権を制限することにも甘んじるのが集団安全保障だという。
たとえば1946年制定のフランス憲法には「フランスは、平和の組織及び防衛に必要な主権の制限に同意する」とあるそうだ。へえ。
憲法改正についての国民投票の意義と今回の法案の問題点についても納得。
(NOでなくYESを求める投票であるのに最低投票率が設けられていないことの問題など)