ラデュ・ミヘイレアニュ『約束の旅路』(2005年、フランス)

試写。原題はキャッチコピーに生かされている通り、Va,vis et deviens(行け、生きろ、生まれ変われ)。80年代ロシアのすばらしい名作『動くな、死ね、蘇れ』を意識してるのだろう(そういいつつ、あの監督の名がどうしても出てこなくて気持ち悪い。たくさん見たのに)。
84年、アメリカ・イスラエルの意向により8000人のエチオピアユダヤ人(ファラシャ)をイスラエルに帰還させた「モーセ作戦」を背景に、実母と別れ、故郷を離れてイスラエル人家庭に引き取られる少年が主人公。
「ファラシャ」とは古典エチオピア語であるゲエズ語でetranger(よそもの)あるいはsans terre(土地をもたぬ者)を意味するという。
ソロモン王とシバの女王の末裔である唯一の黒いユダヤ人ファラシャは、エチオピアでも差別を受けたが、命からがら帰還を果した彼らを待ち受けていたのは「ニセモノのユダヤ人」という新たな差別だった。
一般に知られていないユダヤ黒人という存在に加え、ユダヤ教キリスト教の関係、冷戦終結からイラク戦争への流れなど単独でも複雑な背景が絡み合った作品。
しかも主人公シュロモが実はファラシャでなく、キリスト教徒のエチオピア人であることを隠しているのだから、ますます事態は複雑だ。
2時間20分におよぶ大作だが、疎外され不安定な状況で成長していくシュロモを演じる3人の俳優(坊や、少年、青年)がいずれも魅力的。
特に青年役のシラク・M・サバハ(この人はエチオピアユダヤ人)は色気があり、惹きつけるものがある。
イスラエル家庭のお母さんヤエルを演じたヤエル・アベカシス(イスラエルの大女優だそうだ)も柔らかで魅力的だ。
見ていて、もうだいぶ過去のこととなったラビン首相暗殺を思い出す(映画の途中でアラファトと一緒に出てくる)。確かドゥルーズの飛び降り自殺と同じ週だった。どちらもショックだった。
2007年3月、岩波ホールで公開。
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映画の話といえば、先週クロード・ジャドがまだ50代で亡くなった。
夜霧の恋人たち』『家庭』など、トリュフォーの一連のアントワーヌ・ドワネルもので、妻クリスティーヌを演じていた。
ヒッチコックの『トパーズ』にも出ていたから、私はずいぶんこの人を見ていると思う。
金髪でやせっぽちで優等生っぽい女の子だから、もっとアクの強い女たち(松本弘子とか)を相手に、よくアントワーヌに浮気されていた。