エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ『明日へのチケット』(2005年、イタリア=イギリス)

先日、試写会が満員で入場できなかった映画のビデオ。
ドイツのどこかからイタリアの南のほうまで走る特急列車の乗客たち。それぞれの局面での主役を次々にバトンタッチするかたちで物語を引き継いでゆく。ルイス・ブニュエルの『自由の幻想』を思い出すスタイルだけれど、ただしこれは三人の監督による共作だ。
といってもどの監督がどの部分を撮ったのか、雰囲気でおのずとわかってしまうのが面白い。
最初はドイツのある企業に招かれ、あたふたと列車でイタリアへ戻ってゆく初老の男と企業側の女性との、短時間のやり取りのなかで生まれてくる親密な感情。列車に乗り込んだ男は回想として、何度も何度も彼女の記憶を反芻する。女性の夢見るようなこの目つき。見覚えがあると思ったら、『ぼくを葬る』で主人公に子供を作ってくれと頼むウエイトレスだ。
やがて列車は北イタリアに入り、主人公は横柄な初老の女と若い男に移る。ここではイタリア人の女だけれど、イタリア人じゃなくても理不尽に横柄な年配者を描かせたらピカ一の監督といったら、ほら。それにこのちょっとドキュメンタリーみたいな撮り方といったら、ほら。
列車はローマに近づく。焦点化されるのはドイツの場面から列車に乗っていたアルバニア難民の家族と、スコットランドからセルティックの試合を見にローマまで行く田舎者丸出し、馬鹿丸出しの(その上腋の下も足も臭い)若者三人組。そのひとりが大事な切符を盗まれてしまうのだが…。どうする、このどうにもヒューマニズムで紋切り型になってしまいそうな結末、と思っていたら見事に愉快な展開となり、大いに笑えた。うまい。セルティック・ファンはとりあえず見たほうがよい。
というわけで誰がどこを撮ったのか、これでだいたいわかるのでは?
今日は病院の後、神社カフェでひと休み。夏にビールを飲むのも気持ちよかったけれど、涼しくなった秋のテラスでコーヒーもまたよし。真夏の激しい繁茂から少し落ち着きを取り戻した木々の間で、ツグミのさえずりが時折空気を切り裂く。滞っていた読書が珍しくぐんぐん進んだ。