ラース・フォン・トリアー『マンダレイ』(2005年、デンマーク)

というわけで、予定が狂ってしまったので、前に知人から勧められていた映画を見に行く。映画館に入っても、序盤は頭のなかを日本戦のことがぐるぐるしてしまい集中できなかったのだが重要かつ演劇的な演出が興味深い映画。
舞台は1930年代のアラバマ。閉鎖的な農園マンダレイでは70年前に施行されたはずの奴隷解放が未だ実現されず、黒人奴隷が白人の主人に使われている。解放の理想とともに、屋敷に乗り込んでくる白人女性グレースと黒人たちとの共同生活が始まる…。
長きにわたって抑圧され続けた者の心理、理念の押しつけと偽善、権力者=白人、被権力者=黒人という構図の罠、安易に口にされる「自由」の罠などなど重く迫ってくる事柄が多く、ある収束に向かうかと思いきや、その予定調和はすぐさま裏切られる。安易な結論やとりあえずの前向きな気分に着地しないところがすごい。
高貴な部族出身の誇り高いとされていた男が実は策士で、俗な奴隷根性の部族出身だった、という設定には疑問が残る。出自による絶対的な性格という発想は結局本質主義ではないか。その部分のヒエラルキーはどう考えるのか。
白人主人が元奴隷の労働者を農園につなぎとめておくため、いかさまの賭け事屋をわざと屋敷に呼ぶというのがいやな感じだった。実際にあったのか知らないが、ありそうな気もする。
冒頭で亡くなる奴隷主義者の奇怪な老女は何とローレン・バコールであった。
前作『ドッグヴィル』を見ていないので、サーガの部分としての意味づけはわからないが、とりあえずの感想。