ハンク・レヴィン他『ジンガ』

2回だけカポエイラをやったとき(あまりのハードさに2回で挫折)、練習を通じて叩き込まれたのが基本の動きであるジンガ。「体が揺れる」という意味のポルトガル語で、フットボールで相手をかわすフェイントの足さばきのことでもある。「ジンガとは、苦境を気楽に生きるための手段だ」。いい言葉だね。
「ジンガ」という響きが懐かしくずっと見たかったが、やっと見ることができてよかった。映画館に入って席に着くまでのおどおどしていた気持ちが、スラムの少年たちのボール蹴りする風景にすーっと消えてゆく。
ボールと一体化した軽やかな足さばきがすごい。こんな天才的なちびっ子が背が低いからといってフラメンゴの入団テストに22回も落ちているなんて、ブラジルってほんとに才能の宝庫なんだな。
事故で片足をなくした少年の松葉杖サッカーにも驚いた。恐ろしいスピードでガツガツ走り、杖を軸に強力なシュート。こんな人が追って来たら恐すぎる。サンパウロみたいな都会だけでなく、アマゾンや海辺の地域でも、砂浜で、水の中で、少年たちがくるくるボールを回している。そして1992年、ロビーニョ8歳の超かわいい天才プレイ。地区別の全国大会がなぜか美女コンテストと一緒になっており、サッカーで敗退しても同地区の美女が勝てば復活できるという馬鹿な仕組みも面白かった。
ダンスそのものといっていいあの動きは天性のものだと思う。大きい足に膝下の長い真っ直ぐな脚も、自分と同じ種類の人間とは思えない。見た目ではわからないけど、たぶん上半身の柔らかさやバランス感覚も飛び抜けているのだろう。去年、「ブラジル・ボディ・ノスタルジア」展で、子供たちのカポエイラ映像を見た時にも「こりゃ同じことやるのは無理だわ」と思ったものだ。何で後ろに蹴っても、背中に乗せてもボールがずっとくっついてるんだろう? ボールに乗ってるように見えても転んだりしないんだろう?
反射神経もバネもない自分には金輪際できない。でも、かぎりなくうれしい気持ちになって見続けてしまう動きだ。
ところで渋谷のQ-AXという映画館、ツタヤがやっているらしいけれど、こんな空いてる日にまで全席指定にしないで融通をきかせてほしい。全体がガラガラなのに私の列だけ右も左もサラリーマン男で全席びっしりなんて。もっとゆったり座らせてほしかった。