今日の荒川静香のフリー演技は、1992年アルベールビル五輪における伊藤みどりの演技(銀メダル)同様、記憶に深く残るものとなりそうだ。
このプレッシャーのなか、すべての課題をこなすだけでなく、流れに乗った最高のスケーティング。曲を「トゥーランドット」に変えたことも、長身の「クールビューティー」を生かす紺と空色のツートンカラーの衣装も、すべてプラスになっていた。
3回転ー3回転を安全策から3−2に切り替えたのも冷静な判断だった。中盤以降ますます流れに乗ってエッジワークもスパイラルも冴え(今日もY字スパイラルが出た)、終盤すっかりこちらが荒川の世界に引き込まれたなかでのイナバウアー、続いて3連続のコンビネーション・ジャンプでは涙が出る。最後の、脚を前方に上げてのスプリットで、さらに片手を離すスピンも、最後の最後までもという感じで圧倒された。制約が多いなかでありながら、荒川の個性が滲み出る演技だったのがすばらしい。
8年前、長野五輪での荒川の映像を見るたび、ここまで人は伸びることができるのかと驚かされる。
トータル191,34(フリーで125,32)をマークした荒川に比べ、183、36とだいぶ水をあけられたコーエン、そしてスルツカヤは今日はどちらも安定を欠いていた。特にコーエンはショートでは完全無敵と思われたのだが、一転して落ち着きなく、ソルトレーク同様のムラが解消されていなかったことがわかる。転倒だけでなく、一昨日は世界一と思ったスパイラルも不安定だった(なんかこの選手はアメリカ人らしくなく、マニアックな感じがして好きだが)。
村主は力をすべて出しきった結果の4位だと思う。それとも一箇所、コンビネーションのトリプルがダブルにならなければ、転倒したスルツカヤ(それでも3連続コンビネーションやドーナツ・スピンなど抜きん出ていた)を抜けただろうか。仮に幸運で3位になれても、基礎的な技術力は上位三人には及んでいない。芸術的印象のすぐれた村主のスケーティングをわたしは大いに評価しているけれど、今の採点制度ではかなり不利なようだ。
去年のモーヴ色と紺色の衣装を連想させる、胸元のモーヴから紫系のグラデーションになっているノースリーヴの衣装はとても似合っていた。伊藤みどりトリプルアクセルを跳んだときのラフマニノフの続きの部分(二番の一楽章)を使ったのもよかった。
それにしても疲労困憊した。椅子の背もたれの曲線を利用しながらのイナバウアーで凝りを解消しているが、それでもボロボロで顔は土気色である。明日の研究会の発表準備ができるか心配だ。フィギュアのことなら準備なしでも、いくらでもしゃべれるけど。荒川を、いや苦境に強い村主を見習ってがんばろう…