五輪に合わせて、スピルバーグの『ミュンヘン』が公開されている。1972年のミュンヘン五輪開催中、イスラエル選手団がアラブ系武装組織に殺害された事件をもとにしたドラマとのこと。
実はこの事件、私が物心ついて初めて意識した国際ニュースである。把握しようと思ったが、子供にとってはどうにも意味がわからない。周りには説明できる大人がいなかったし、説明されたとしても、因果関係など理解できなかっただろう。結局この事件が原因で、私のミュンヘン五輪全的把握の計画は頓挫した。
もとはといえばその半年前、札幌五輪に熱狂したことから計画は始まった。この世にこれほど楽しいイベントがあったのかと感動し、可能なかぎりすべての競技結果をノートに記録していった。翌日になれば新聞にも載るのだとは知らなかったのだ。
当時の私のアイドルはフィギュア・スケート銅メダリストのジャネット・リンで、ジャネットが苗字でリンが名前だと思い、リンってかわいい名前だなと思っていた。振り付けつきのジャネット・リンのテーマソングを作詞作曲し、ファンレターも書いて親に渡した。英語に訳してアメリカに送れるような親ではないし、新聞社や雑誌社宛てに送るというような機転がきくとも思えないから、本人には届いていないと思う。
レイバック・スピンやデス・スパイラルなどフィギュア用語もこの時ずいぶん覚えたが、ジャンプについては金メダリストのシューバにしたって、今の選手のハイレベルに比べたら、高さもスピードもないヘボいものだった。ビールマン・スピンの元祖ビールマンさえ、登場まで何年も待たねばならない。
やがてミュンヘン五輪が来て、私のアイドルは女子体操のオルガ・コルブト(ソビエト連邦)となった。すでにオルガが名前でコルブトが苗字とわかるまでに成長していた(今ではアメリカに移住して、万引きなどでお騒がせの元有名人となっているらしいが)。
そして例のイスラエル選手団の事件が起きた。
だから『ミュンヘン』公開を知ったとき、ものすごく興味をもったのだが、映画の紹介記事やリリースなど読むたびいやなものを感じ、観る気がしなくなる。