ステファニー・ブラック『ジャマイカ 楽園の真実』

原題はLife and Debt。元首相やIMF幹部、工員や農民などのインタビューで構成されたドキュメンタリー映画で、ジャマイカの、というよりカリブ海諸国の農業問題、IMFとの関わりなどがよくわかり、興味深かった(7月16日より渋谷のアップリンク・ファクトリーで公開)。
IMFから融資を受けるためには輸入制限撤廃が抱き合わせであり、北米から法外に安価なキャベツやニンジン、粉ミルク、牛や鶏が入ってくることで、国内の第一次産業が崩壊してゆく仕組み。熱帯産品であるバナナさえ、アメリカ系大資本のチキータ、ドールの圧力で生産縮小の一途をだどる。ジャマイカよりもっと貧しいハイチには、20年前の冷凍鶏肉が輸出されるというのは衝撃的。
首都キングストンにあるフリーゾーンは、世銀や米州開発銀行などがジャマイカ人雇用促進と称し共同で建設した特別区の工業地帯。アメリカ製の布地やボタンを工員たちが縫い上げ、できた製品はトミー・フィルフィガーやブルックスのタグをつけられ、そのまま船で海外に運ばれる。雇用がないよりあったほうがいいというが、島の産業として根づくわけではないのだから、この地区は島にあっても外国と同じことだ。グリッサンの『アンティーユのディスクール』では本国フランスとマルチニークの関係として問題にされている構造が、同じカリブの独立国である、ここジャマイカでも見られる。
映画の論調では、膨らんでゆく累積債務や産業の衰退がひとえに先進国主導のグローバリゼーションのせいであるようにも取れるが、カリブの島々を訪ねたり人を観察した印象からの意見をいうと、必ずしも原因はそれだけでもない気はする。念仏みたいにマルクス主義的なことをいうよりは、もっと複眼的に見る必要はあるだろう。それにしても尻の毛まで抜くようなアメリカ流のやり方は何ともえげつないものだ。
マクドナルドが70年代から島にあるレストラン「マクドナルド」を訴えたのもあきれたけれど、現地のマクドナルドはジャマイカの家庭料理を出す店で、山羊のカレーとかがメニューにあってマックなんかより全然美味しそうだった。
ナレーションで使われているのは、ジャメイカ・キンケイドの『小さな場所』。画面の背後には、ボブ・マーリージギー・マーリー、ピーター・トッシュらのレゲエが流れている。http://d.hatena.ne.jp/norah-m/20060310