きことわ

仕事――それじたい小説を読むことだが――の息抜きに読んでいると、なんとも心地いい。
まして今夜は雪だし。

時間の伸びひろがり、現在に混入してくる過去というような時間のことが、やはり私は好きだし、いつも感じ考えてしまうのだ。
それってちっぽけな話題だろうか。たぶんそうなんだろうけど。

影を介してつながり合うふたりの髪の毛(髪は重要なモチーフ)。
食器棚のガラスといった些細なものに映り込む姿が未来となる。
過去のことを夢見ているのか、現在と思うものが夢なのか、そのリバーシブルな感じ。
満月と新月が出てくるラストは秀逸。

月下美人の焼酎漬け」。ほんとにあるのか。昔、月下美人が花開いたとき、家族の者がやろうとして呆れたことがある。

「人は皿洗いの果てに死んでゆくものなのだ」。まったく。
こんな煩わしいことと思いつつ、そうした家事から解放されている生活というのもまた嘘くさい。

海辺の別荘を舞台に、女ふたりという設定でありながら、スノッブなもの、スカしたものがないのが偉い。
見習いたまえよ、庶民の諸君(→自分に)。

「なずむ」とか「こごる」とか「しずれる」とか、聞いたことのない動詞をいくつも知った(そしてたぶん忘れる)。

ずっと前にハワイに行った折り、ホテルのベランダで朝吹亮二の詩集を読んでいた時間があったことをふと思い出した。
気持ちのいい風だったなー(そして、えーと、詩を記憶できてない私)。