9駅先の異界

またも歩きに歩いたが、日が暮れかけると急に心細くなってくる。
そんな場所なのだ。
降り立った駅まで急ぎ足で戻り、一服したいがいまどき見事なまでにスタバやドトールといったチェーン店が見当たらないので、駅裏にあるかなり古びた喫茶店に入ってみる。
なかなか雰囲気のあるウッディな店内には、マスターと奥さんらしき人と中年の女の客。
コーヒーを注文してちょっとよそ見をした一瞬の後に、なぜか女のお客さんがコーヒーを運んできてくれる。
カウンターにペットボトルに入ったコーヒー色の液体があるけれど、もしかしてあれを温め直した?
続いて奥さんがミスドのたくさん入った箱を持ってきて「好きなのどれ?」というのでチューロを指すと、コーヒーの横にチューロのお皿を置いてくれる。
コーヒーは店名にプライドは持っていないのかと問いたくなる味で、久しぶりのミスタードーナツは妙に美味しく、マスターと奥さんはがらっぱちながら気さくにこの辺の昔話をしてくれ、女の客は明らかに外国訛りのある日本語でテレビから流れてくるチリの救出劇と女子高生が塀の下敷きになった事件についてコメントし続けていた。
やっぱりここは東京でも地方でも郊外でもなく、日本でもない異界のような場所なのだ。
この店にはまた戻ってきたい気がするが、もしかしたら幻で、次行ったらないかもしれない。
とはいえ、現実に煮詰まったようなコーヒーのせいでお腹がおかしくなった。