ギミリオーの小教区囲い地

地の果て、フィニステール県の港町ブレストの東側一帯には、Enclos paroissial(小教区囲い地)と呼ばれる不思議な教会の区画がいくつもある。
この辺は、6世紀頃ウェールズから宣教にやってきた人々と関係の深いレオン教区にあたる地域だ。

中でももっとも有名なのが、ギミリオーGuimiliau(ブルトン語の表記ではGwimilio)という人口1000人足らずの小さな村にある囲い地。
石造りの塀で囲われたごく小さな敷地に入ると、教会堂、納骨堂、小教会堂、墓地がひとまとめに中にある。
すべてが黒みがかった古い石造り。
石のあちこちからは草花が生え、風になびいていた。
特に目をひくのが、中央にあるカルヴェールだろう。
マリアの受胎、キリストの誕生など、聖書の物語が200人近い石の彫像で表わされ、文字の読めない人でも理解できるようになっている。
像のひとつひとつがあまりに素朴でどこかコミカルだ。

教会堂の入口にも物語は彫られていて、こちらはアダムとイヴ、カインとアベルノアの箱舟といったエピソード。
アダムのわき腹からイヴが生まれるなどというムッとくる場面さえ可愛らしく、どの人物たちも生き生きとして親しみを感じる。
彫像の合間には、ケルト風の渦巻き模様も見える。

16世紀から17世紀にかけて作られたというから、教会としてはそれほど古いわけではない。
なのに、この原始的な感じ、フランスというよりどこかスペインの村のような信心深く濃い空気は何だろう。
まさにブニュエレスクな世界。

薄暗いパステルカラーの教会堂の中で、初めて敬虔な気持ちになる。
というか、何かが降りてきてしまって胸苦しいほどになり、ほとんどキリスト教徒になりそうだった。
ひとつのものだけを信じるって、こわい。
でも少しわかる気がした。