トヨダヒトシ・スライドショー

写真集も作らなければ写真展も開かない、その場だけのスライドショーを唯一の発表形態とするトヨダヒトシさんの『NAZUNA』を見る。
2001年9月11日のあたりから1年を超えるぐらいの期間に撮られた日常写真の数々。
まずは煙を上げるワールドトレードセンターの写真に驚いた。
センセーショナルな報道写真としてならいやというほど見ているあの事件だけれど、どこだかニューヨークのありふれた住宅地の、日常の背景として映っている。
アパートの中庭とか草とかコスモスにとまる蜂なんかの写真と並んで。
もちろんそれは見過ごされてしまう日常ではなくて、追悼の花や尋ね人や演説するブッシュの映像なども出てくるのだが、なんだろう、この静かで普通な感じ。
というか、こっちが本当なんじゃないか。
(Love is God, Evil is Hateと書かれた旗が出てきたけど、結局こういう言い方しかできないところ、アメリカ人てやだなあ)

お父さんとお母さんのいる食卓が豊かでおいしそうである。
特に、里芋のきぬかつぎ、いんげん胡麻和え、餃子、刺身、ビールやお酒の瓶…
自給自足の禅寺で作られる豆腐や煮豆、すいとん、お餅なども魅力的。
たずねあてた那須に住むアーミッシュの人々。
一瞬映るnorahお気に入りの場所、遊行柳。
キックボクサー松葉さんの風貌、走る姿がとてもいい。
それに赤が似合う幸せそうなお母さん、玄関のたたき、寺の人々、犬たち(主役)、落書きのある塀、アリンコなど。
折々出てくる定点観測的な場所の写真。
医療センターの建物が何度も出てくるのが気になっていたけれど…

見飽きない人工物はそうそうないが、まったく見飽きることがなかった。
写真を撮った人の一年ちょっとの時間の全部が詰まっている。
残酷でもありながら、すばらしく濃密な写真群だと思った。