下関女ふたり旅

何も下調べせずに単線で向かう途中地図を広げながら、その地形の驚くべき複雑さ、面白さに興奮がつのってくる。
地図をじっくり見てると燃えませんか?
とりわけこんな、先端が逆三角にすぼまって、右には日本海が、左には太平洋が一挙に視界に入り、別の陸がすぐ目の前に迫っているような場所。
そうした二次元の世界にまるで関心を示さない連れは、あらでも私だってイスタンブールの地図は頭に入っているのよって、それはちょっと意味とか興味の方向が違うだろうと思ったけれど、現実にその場所に着いてみたら、なんだここは、ボスフォラス海峡かという感慨だった!(行ったことないけど)
港は日暮れて水は黒く何も見えなかったけれど、対岸と長い吊り橋をふちどるようにネオンがともり、こちらの最近ひどくなった乱視のせいでそれが多方向にちらちら揺らめき、両岸にぶつかって籠るように響く汽笛の音で船が行きかう気配がわかる、静寂のなかの賑やかさ。
川とも開かれた海とも違って、すぐ対岸にはまったく見知らぬ何かが待っているような胸がざわめくこの感じ。
まさに海峡。
この狭い港からは、釜山へも青島へも行くことができる。

[午前7時、朝日を浴びながら乗船]
小さい船で対岸の門司港に渡った。
所要時間5分。
やったー、九州上陸。
この前最後に来たのは25歳ぐらいのとき出張で。
海峡といえば、津軽海峡ドーバー海峡メッシーナ海峡にいったことがある。
それぞれ15歳、20歳、23歳ぐらいのときのことだから、あまりに記憶が遠くて感覚を忘れていた。
本当に久しぶりに蘇る海峡感覚。

[さよなら、九州]
関門橋の真下(つまり壇ノ浦)の波打ち際に、和布刈神社というひなびた神社がある。
新春にはワカメの新芽を収穫する神事があるそうだ。
海に続く石段にフナムシがびっしり這い、石灯篭はフジツボで覆われていた。

ハードで疲労困憊の旅だったのに、帰ってきたら体重激増。
でもそれも無理からぬこと、だって晩にはトラフグ、昼には市場の回転寿司でとびきり美味しいイカやクジラやウニやサザエを食べたんだもんな。

下関の複雑な地形にも興奮したが、そういえばその前の日、小野田の浜の対岸に見えるのが九州の大分だと聞いたときも、えっ、どうして四国じゃないの?と、キツネにつままれたような気分だった。


[さて連れとは誰でしょう]