それでも私は五輪を観る

ふらふらながら、備忘録として柔道総括。
100キロ超級、グアドループテディ・リネールとの決勝戦(身長差24センチ:リネールは2メートル4センチ)を期待して、石井慧くんが勝ち上がってくれればいいと思っていたが、石井は残り、逆にずいぶん先に負けてしまったのがリネール。
石井は重量級にもかかわらず、ほとんど一本勝ちのいい柔道をした。
リネールは敗者復活を賭けたブラジル、シリトレーとの対戦では、みごとな払い巻き込みを見せてくれ、こういうダイナミックな技をもって、石井と金メダル争いをしてくれたらよかったのにと思う。
どのみち二人とも若い(19と21)。
たぶんもっと充実しているはずの4年後に期待。

やはりすべての階級を通して気持がよかったのは内柴正人谷本歩実で、その印象はアテネのときとまったく同じだ。
(アテネのときはもちろん野村も)
内柴は必ずしも一本勝ちではないけれど、バネが効いたような動きがいいし、どうなるのかまったく読めない状況の中、最後の数十秒でいきなり勝負を決める彼のスタイルはとてもスリリングで、柔道の面白さを感じさせてくれる。
谷本は北京、アテネの全試合通しての一本勝ちがほんとうに爽快。
始まってたった一分数十秒で、リュディー・ドゥコス(ドコス)がかけてきた大外刈りをかわし瞬間的に入れた内股はすばらしい。
鍛えている選手たちというのは、技(寝技以外)が決まるとき(落ちていくとき)の形が勝ったほうも負けたほうも何ともきれいだ。

谷本とは誕生日が二日違いの同じ27歳で、ほとんど幼なじみ(柔道友達)といっていいドゥコスはギュイアンヌ(仏領ギアナ)出身。
時々帰郷しては、カイエンヌの柔道教室で教えている。
このドゥコスにしても、内柴に負けたダルベレにしても、リネールにしても、柔道大国フランスは金メダルがひとつもないとメディアは大ブーイングだ。
(JO関連ニュースのフォーラムなどを見ていると、ダルベレは先に一本とってたのに審判はフェアじゃないとかいう書き込みがいっぱいあってハァー?って感じだ。あれは内柴が巴の態勢で攻めていたのだ。それを証拠にダルベレ自身は納得している)

フランスが弱くなったというよりも、他のこれまでマイナーだった国、特に中央アジアが総じて力をつけてきたのだろう。
アゼルバイジャンやモンゴルが今回初めて金をとったのは喜ぶべきこと。
鈴木桂治の両足を抱え上げて初戦で勝ち、結局優勝までしたモンゴルのツブシンバヤル、すごく切れがよくて強かったけど、国の大スターになるのは間違いないな。
(相対的に、朝青龍の権力が弱まるといい)
グルジアのグルジャーニも強かった(石井と対戦)。
アフリカ勢も層が厚くなった。
とりわけアルジェリア、エジプトなど北アフリカが伸びている。

それにしても塚田真希、前向きでよく動いていて、試合運びも優位だったにもかかわらず、残り数秒での一本負け、ずっと応援していたので思わず泣いた。
しかしトン・ウェンがホームだったから有利だったのではない。
終始劣勢だったにもかかわらず最後の最後にくり出せたあの一本背負い投げ、トン・ウェンは本当にすばらしかった。

柔道の国際試合って、これほど多国籍の選手・審判・コーチたちが、全員日本語だけ使っているのが面白い。
たぶん世界中の道場で飛び交っていて、それでいながらその人たちは「知っている日本語は?」などと聞かれたら、「日本語なんてひとつも知らない」とか答えたりするのかもしれない。