郵政民営化、賛成ですか、反対ですか?

結論からいうと、私は郵政は民営化すべきと長らく思ってきたのだが、公社のままで大改革することも可能だったかもしれないと考えている。
もちろんこれは小泉前首相が選挙のスローガンとして使っていた「郵政民営化、賛成ですか、反対ですか」というようなこけおどしの文言に乗り、賛成の一票を投じたというようなものではない。
また、社民党的メンタリティの人々、あるいは左翼系知識人らがこぞっていう「以前のままの郵便局を何一つ変える必要などなかった」というセリフなど論外だと思っている。
彼らは基本的に「郵便」の問題点についてしか語ってこなかった。
曰く、郵便局が競争原理にさらされると過疎地の局が淘汰され、サービスを受けられない地域のお年寄りが困ってしまう。
これは非常に深刻な問題だ。
だが、郵政とは郵便、郵貯簡保の三大業務で成り立っており、これらを個別に、さらに連携して考えなくては意味がない。
私が旧郵政公社で最も問題視していたのは、特定郵便局世襲制コンプライアンスの欠如である。
全国の郵便局2万数千のうち8割ほどをも占める特定郵便局長が一般公務員であるにもかかわらず世襲で受け継がれ(特定郵便局には家賃などの名目で相当の手当てが国から支給されていた)、最近になり任用試験が行われるようになったがそれも形式だけ、という事実は知られていたのだろうか?
日本のような先進国で公務員が今どき世襲だなど、制度としてどうかしているとしかいいようがないが、それだけでなくこの制度の「後進性」と同調するかのごとく、民間ではありえないモラルの低下が散見されてきたのである。
実際、私が身近に知る例では、Aが郵貯に小額の預金をしようとしたところ、自分の口座の限度額1000万円を超えているのを知り驚嘆した。
調べてみたところ、地方にいる親族Bが遠縁にあたる特定郵便局長の指南により、Aの名義で勝手に口座を作り、B自身の口座では預けきれない預金を分散していたことがわかったという。
私はこの件を問いただそうとしたのだが、先方の意識があまりに低く、問題が理解されなかったということがあった。
たぶん悪意などない、気のいい田舎の郵便屋さんなのかもしれない。ぬるま湯的・家族的職場環境にあって、業務の知識やコンプライアンス意識を身につける姿勢がなかったのだろう。
だが、ある程度以上規模の大きな組織でその感覚は許されない。
民営化を前にしての報道番組で、地方のお年寄りの声がいくつか紹介される中、「今までは気心知れた局員の何とかさんだから、安心して通帳や現金を渡せた」などの発言があったが、これなどは美点とばかり私は思えないのである。
確かに貯金や金融商品のことなど自分で調べるのは面倒だし、足腰もあまり動かないという立場で、こうしたなあなあな関係の局員さんは便利だろうが、それだけに危うい面も多かったのではないか。
公的に守られた制度は透明性を欠きやすく、腐敗や利権につながりやすい。
資産は莫大で、郵貯で200兆、簡保で100兆の計300兆円にのぼる。
かつて特定郵便局長会は自民党経世会郵政族の票田となっており、小泉前首相は単にそれを潰したかったのだともいわれている(結果的に私にもそう見える)。
では小泉前首相がしたことは何か?
組織を分断して外に放り出し、一方、よりクリーンに、よりコンパクトにするべき郵貯の限度額を縮小するどころか限度なしに改めた(民主党は1000万から500万に引き下げるという方針だった)。
すなわち、郵便部門は国の保護を失って競争にさらされ、結果過疎地にしわ寄せが行き、郵貯じたいは焼け太る一方、印紙税が課されるなどで手数料、小為替など利用者負担は増えることになる。
莫大な資産をもったゆうちょ銀行は民間の地銀を圧迫し淘汰するだろう。
またゆうちょ銀の方も、これまでと違って、自らの力でリスクをとり、資金を運用していかなければならない。
すでにスルガ銀行と組んだサブプライム・ローンの企画など報じられている。
世襲の公務員はどうなるかというと、今までのことはうやむやなまま民間人となる。
確かに民営化によって、この奇妙な世襲の制度は自然崩壊していくような気がする。

私としては、莫大な郵貯資産と結びついた世襲特定郵便局を抜本的に改革するには民営化という方法しかないだろうとこれまで思っていたのだが、経済通の家族の意見など聞くにつれ、郵貯じたいの限度額を半分以下に縮小し利権の機能を奪えれば、公社として郵便事業を保護することもありえたという考えをもつようになった。
いずれにしても、現在進行している事態とはまったく異なる考えである。