シミ

すると、私の内部で何かが身ぶるいするのを私は感じる、それは沈んでいる場所から動き、上にあがってこようとする何かであり、非常に深いところで、錨のようにひきあげられようとした何かだ。私はそれが何であるかは知らない。しかしそれはゆっくりとあがってくる、私はそれの抵抗を感じ、それが経由してくる距離の鈍いひびきを耳にする。
なるほど、そのように私の底でぴくぴくしているもの、それはあの味にむすびつき、あの味のあとについて私の表面まであがってこようとする映像、視覚的回想にちがいない、しかしそれはあまりにも遠くで、またあまりにも見さだめにくい形で、動いているのであって、かきまぜられたさまざまな色彩のとらえにくい渦巻が溶けこんだその鈍い反映はどうにかそれと私に認められても、その形は判別できないし、可能な唯一の通訳のように、その反映にたいして、それと同時に生まれそれと切りはなすことができない伴侶――あの味――の証言を、翻訳してくれるようにたのむことも、それがどんな特殊な事情、どんな過去の時期に関しているかを教えてくれるようにたのむことも、私にはできないのだ。


あの味、とは島の陽ざし。
無意志的記憶のように、唐突に、驚くほど瞬間的に表面に立ちのぼるそれの裏面に、確実に光に満ちた過去の時間の広がりがある。
それは黒く濃く圧縮され、星座となって散りばめられた過去である。
新しくつけ加わった過去のもや――まだ若く、不定形だ――がうっすらたなびき、星雲をなす。
あるいはそれは島影である。
海を越え、降り立ったのとよく見ればそっくりな。