宮古上布

宮古上布の歴史は450年前に遡る。
台風で沈没しかけた進貢船を救ったことで、洲鎌の与人・真栄が高位を授けられ、それに返礼するかたちで妻・稲石が藍染の布を織り、琉球王に献上したのが始まりという。
機織の稲石はまた巫女でもあった。
洲鎌ツルさんはその稲石から十三代目の子孫。
二十歳の頃から織り始めて、六十年ほど。
はっきりした年齢は伺わなかったけれど、八十歳前後である。
今も毎日、機を織りつづける。
「若い頃は三ヶ月で反物を仕上げられた。でも遊びたかったからね」
ということで、遊んでもいたらしい。
宮古上布は苧麻(ラミー)を原料にアワビの貝殻を使い、手紡ぎするのが特徴。
工房の窓の外には苧麻の茂みが広がっている。
めったに目にする機会はないが、藍地を基本にした麻の透け感が涼しげで美しい。
大胆な縞柄が多い一方、フクギ(沖縄でよくその辺に生えている楕円の葉の常緑樹)染めの濃い黄色やマングローブ染めの臙脂(時に茶)が絣模様で入ってくるものもある。
ヤマトでいうと夏の和服に使う絽のような感じで、こちらも好き。
こういう薄羽蜉蝣のような透ける衣というのは、本当に夢幻的で素敵だ。
トニ・モリソンの『ビラヴド』で、主人公のセサが奴隷同士結婚するのにどうしてもそれらしいドレスが着たくて、蚊帳を盗んでスカート部分を作る描写が大好きだけど、それもこのイメージに近い(トニ・モリソンの小説って少女小説的に魅惑的な断片がたくさんあるけど、たぶん誰もそういう読み方しないんだよね)。
最近あまり見ないけれど、蚊帳というのはあの煙るような、薄葉蜉蝣のような素材の感じが本当に素敵で、そこに潜り込むととても守られた気持ちがするのに、閉鎖的でなく外もぼんやりと見えていて、すごく魅力的なものだ。
宮古上布はもっとずっと目が詰んでいて上等だが、ちょっと蚊帳を思い出す(失礼な形容かもしれないけど、わたし的には賞賛の意)。
こんな美しい織物、いつか大人になったら(いつ?)身にまとってみたいものだ(でも反物だと120万円以上するらしい!)
ツルさん、いつまでもお元気で。
(それにしても機織りで[琉球王に]恩返しだからツルさんなのかと思うのは、ヤマトンチュ的発想だろうか)