台風

襟元からカブト虫が背中へ入り込んで取れないーとはげしく焦ったところで目が覚めると、部屋の屋根を豪雨が打っていた。
この部屋で雨の中寝ると舞台で満場の喝采を浴びている気持ちになれるのだが、台風の雨というのはひどく不安定なリズムなためそういう錯覚をできない。
電車が止まると困るので、台風から逃げるように荒川を渡り帰ってくる。
さっきマンション一階の新聞受けのところへ行ったら、その空間の構造のせいなのか、風が飛行機がまさに飛び立つときのエンジン音とまったく同じ音を立てていて、建物ごと離陸するかと思った。
家にいるからまあ安全なのだけれど、窓を開けて雨風やバナナのばさばさいう音を聞いていると興奮して何も手につかない。
この不安定なリズム、ぞわっと来る。
もう胸がどきどきしっぱなしで、元から疲れはてているのによけい疲れた。
台風のとき屋外にいてテレビニュースのクルーに声をかけられたらいやだな。
雨風に打たれるつらさと無残な恰好を撮られることの憤りにパニックを起こして、きゃあーなどといいながら無意味なギャル笑いなどしてしまいそうだ。