鍼と灸と注射

鍼を打たれた後しばらく放置されている時間は、目を閉じているか、背中を照らしている遠赤外線の丸い光がスチールの壁に映って夕日のようなのをぼんやり眺めているのだが、そうして夕日を眺めている間、自分のすぐ横で寝ているぐらいの近さで豪快なイビキが響き渡っていたのは、あれは誰?
鍼は気持ちがいいけれど痛みは相変わらずなので、お灸を据えられた!
熱い。熱すぎて痛い。これは全然好きではない。
痛みで毎朝目が覚めてしまうというのは相当シビアな状態だからまずは痛みの連鎖をブロックする注射を打ったほうがいいということで、整形外科に回される。
なのに整形の先生、ふふふ、僕も実は鍼、打てるんですよね、といって、追加で鍼をブスブス打ってくる。
あれは鍼を打てる機会をうかがっていたとしか思えない。
こちらは一生でも鍼を打たれていたいぐらいだからいいけどね。
背中を指でなぞりながらふと止まっては、あ、すごい疲労度だ、ここは、などといっている。
こういうのは自分の疲労度が科学的に証明されたようで、こちらも満足感がある。
それでますます体が緩んでふわふわしているところへ、首のきわや背中、腕の真ん中に痛みを止める注射もブスブスと打たれる。
もうふらふらの夢心地なのだが、先生、だいじょうぶですかー気分悪くなったりしてませんかーなどといってる傍から、それでサルコジ政権は今後、国際社会にどう影響を与えると思いますかーなどと議論をふっかけてくる。これは眠らせないための拷問みたいなもの。
こんどの…そうせんきょで…うはが…ここまで…たいしょうするというのは…ふらんすじんも……………

今日も帰ってしばらくは泥のように起き上がれなくなる。ここまでやってもまだ痛みは取れないけれど、久しぶりに腕をまっすぐ伸ばして寝ることができる。
それにしてもすごいなー、薬も使わないで鍼だけ刺して気分がよくなるなんて(注射は別だけど)。
東洋医学ってなんて偉大な文化なんだ。
お金のある人がホストに入れあげる心境とかってまったく理解できないけれど、鍼灸師に入れあげるというのだったら十分共感できる気がする。

帰り道、路上ですごくかわいいつぶらな目を見開いたまま死んでいるネズミを見た。
こういうのは珍しい。