プチ・ロベールをめぐって

プチ・ロベール仏語辞典の「植民地化」という語の定義に「開発」と書かれていることをめぐって、CRANという黒人団体が抗議活動をおこない、2007年版の回収を求めているとの記事を読む(22日付の朝日新聞朝刊)。
手元にあるプチ・ロベールのcolonisationを引いてみると、確かに2番目の意味としてMise en valeur, exploitation des pays devenus coloniesとあった。でも私のは1993年版(古い)。ということは今までずっとこう書いてあったのを、今になって抗議しているというわけだ。
リベラシオンにCRAN(Conseil repre'sentatif des associations noirs, 黒人連合評議会って感じ?)代表のインタビューが載っていた。それによると、この組織は昨年2005年にできたばかりなため、これまで抗議の機会がなかったけれど、この定義は昨年来さんざん問題になり、今年3月に撤廃された2月23日法第4条の文言(フランスは植民地においてポジティヴな役割も果たした)とも連動しており、即刻削除すべきだとのこと。
これに対して、辞書の定義は政治的に正しいか正しくないかを問うものではないとか反論もいろいろあるみたいだが、個人的に素朴な疑問。
実はこのexploitation(単純な和訳では「開発」)って言葉の語感が、私は前から掴みきれていないんだけれど、この語をまたプチ・ロベールで引くとAction d'exploiter, de faire valoir une chose en vue d'une production(cf.Mise en valeur)とあって、「生産を目的とした価値づけ」だってことがわかる。さらにexploiterという動詞の方には、「生産および儲けを目的とした」とさえ書かれている。valeurに関しても、精神的な価値だけじゃなくてprix、つまりお金で計れる価値、値段の意味がある。
CRANの人たちが怒っているのは、上の定義を「(精神的に)無価値な人間たちに価値を与えること」と解釈し受け取っているからだろう。でも「生産や儲けを増大させること」というなら、まさにある土地の植民地化によってフランスはじゃんじゃん儲けたわけだから、いいも悪いもその通りだと思うのだが。
フランスに住んでおらず、フランス語に接するのはもっぱら書物(しかも偏ったジャンルの)でばかりだから、現代フランス人がそれぞれの言葉に対してもつ語感というのをあんまり共有できてないかもしれないんだけど、どうなのかなあ。もちろん語源や語義を論拠にするのも、いつも正しいわけではない。