テオ・アンゲロプロス『エレニの旅』

最終日に何とか間に合った。最近こんなことばかり。でもやはり劇場で観てよかった。卵色に照らされた劇場のバルコン席にたくさんの家族が暮らしているというのがいい。うって変わって白いシーツが一面にたなびく「白布の丘」。水に埋もれる村。弔いも筏に乗って、川を流れて。黒衣の人々の影が棺の背後に並ぶ造形美。編みかけのセーターの糸をほどきながら遠ざかっていく夫の船。最後に糸が途切れ、空に跳ねあがる。酒場のバイオリニスト、ニコスの絶望した表情には胸打たれる。
ちょうどアジュロンのフランス植民地史を読んでいるので、二つの対戦間という時代に入っていきやすかった。列強に煽られてやむを得ず戦争に向かい、それでもイタリアやドイツのような大国と戦えば敗退するしかないギリシア。夫はアメリカ兵として沖縄で戦い、ギリシアの村人である妻にはどこともわからない慶良間諸島で戦死する。
それにしても「川の水源を探す」というテーマによく行き当たる。グリッサンの『レザルド川』もそうだし、ルーマンの『露を制する人々』もそう。魅力的だけれど、やっぱり起源をたどるということになってしまうのだろうか。そうでなければいいと思っているのだけれど。