ラース・フォン・トリアー『ダンサー・イン・ザ・ダーク』、レジス・ヴァルニエ『インドシナ』

これまでに観た映画の中で最も泣いたのが『ダンサー・イン・ザ・ダーク』。アメリカにいた時、映画館を出てからアパートまでの道を15分ぐらい泣き通しで歩いたのを覚えている。映画館の係の人が呆れていた。4年ぶりぐらいに見直したが、また号泣。なぜその時ドヌーヴをそんなにいいと思ったか、見直して再発見した。この監督独特の、不安定な接写で撮られたドヌーヴのやつれた顔のこの上ない優しさ(犬の真似をしてワンと鳴いてみる場面がいい)。北欧ロケで作られた虚構の「アメリカ」に、巨大な背中をゆさゆさ揺らす移民のドヌーヴは似合っている。セルマに「大きくて幸せそうなあなたが好き」と言われてむっとしているが、セルマの言うとおり。それから死刑間近のセルマに付き添う女看守がいい。セルマを支えるキャシー(クヴァルダ)=ドヌーヴと女看守とがいい映画だ。
インドシナ』は前観た時の記憶がうろ覚えで、間違ったことを書いてしまったため、最後のエリアーヌとカミーユの別れの場面を恐る恐る観る。そして何とわかったことは、私も間違えたけど、多和田葉子もセリフを間違って引用している。さらに字幕がしゃべっているセリフとかなり違う(後の展開を踏まえた上での相当の意訳)。結局、「フランスに帰ればいいじゃない」などというセリフはこの映画に存在しない。カミーユのその部分のセリフは原語では「行って、ママン。この子も連れて行って」なのだった。うーん。この間違いは忘れていいことにしようか。
カミーユとエリアーヌが踊るタンゴの場面で、二人の背中が美しい。こんなきれいな背中に触ってみたい。それと最後の場面で、スイスの湖畔の景色がベトナムの湾の景色と重なるところもいい。