Jacques Roumain, Gouverneurs de la rosée(1944), Le temps des cerises, 2004

ハイチ現代文学の祖にしてハイチ共産党創始者、ジャック・ルーマンの『水を制する人々』を読む。旱魃と飢饉に苦しむハイチの集落フォン・ルージュ。かつての殺傷事件をきっかけに、集落は敵味方に分かれ、互いに憎みあっている。ある日、何年も出奔していた息子マニュエルがキューバから両親のもとに戻る。日々、憑かれたように野山を歩き回るマニュエルは、山の中で水源を掘り当てる。敵方の娘アナイーズと恋に落ちた彼は彼女にだけに水源の場所を教える。水源を集落の皆で分かち合い、繁栄を取り戻そうと考えるマニュエルは、敵方を説得に行って大半の同意を得るが、憎しみに取りつかれたジェルヴィランの夜討ちに会い殺される。故人の志を継いだ人々は灌漑工事に取りかかり、村に流れを引くことに成功する。母デリラは息子の不在を悲しむが、アナイーズのお腹にはその子供が宿っていることを知る。
1907年、ポルトープランスに生まれたルーマンはヨーロッパ、アメリカで農業などを学んだ後文学活動を始めるが、その一方で早くから政治活動に目覚め、三十数年の生涯のうち、当局により何度も投獄されている。『水を制する人々』はリアリズムの手法で描かれたアンガジュマンの文学。
個人的な興味としては、クレオール文学によく見られる長い通夜の描写(当然ながら、崇高な短い生を終えた男のため祈る母と妻)、ヴードゥー儀式の描写、恐らくは1940年代のハイチでは流通していたと思われるAdieu, icitteなどの表現(それぞれAu revoirと iciを意味する)などが面白かった。
ルーマンの後に続くハイチ文学者としては、マジックリアリズムの手法を用いた『奏でる木々』などのジャン・ステファン・アレクシス、ブルトンに絶賛されたルネ・ドゥペストル、クレオール語での創作を続けるフランケチエンヌ、アメリカ合衆国に移民し、英語で創作する道を選んだエドウィッジ・ダンティカなどがいる。