ヴェルナー・ヘルツォーク『コブラ・ヴェルデ』(1987)

ブラジル最後の奴隷商人を扱った映画で、ブルース・チャトウィン原作。
奴隷貿易といっても、ブラジルは1888年まで奴隷制を敷いていてその末期の話だから大して大昔ではない。
ヘルツォーク=キンスキーのコンビなど20年ぶりぐらいに見た。
砂埃にまみれた山賊コブラ・ヴェルデを演じるキンスキーの怪優ぶりは変わらず。
だが、奴隷商人に転じてから若干エネルギーが落ちてくるように見えるのは、奴隷制という人道上あまりに重いテーマを扱ってしまったゆえか。
奴隷制は犯罪だ、人の心が作り出す」というようなPC発言、クラウス・キンスキーの台詞としてあまりに似合わない。
といってもこのコンビに対しては、私は基本的にものすごく好意的なので、実はその場にいたみんなほど欠点が気になっていない。
体の歪んだバーの青年との出会いとか、最後の海辺の場面で、やっぱり体の歪んだ黒人少年が四つんばいでキンスキーを追ってくるところとか、人道とかとは違うレベルで感動的である。
この映画を最後にヘルツォークとキンスキーは決裂したそうだけど、川本三郎によればそれ以前もいがみ合いは激しく、そもそもヘルツォーク監督はかなり奇行の多い人で、出演者に催眠術をかけたりするそうだ!
さすがあの『フィッツカラルド』の監督だけある。
この映画は、アマゾン密林にオペラハウスを建てようと夢想した実在の男の話で、草の生えた土手っぱらを巨大な船がずるずると上っていく場面がすごすぎる。
そして主人公キンスキーの狂いぶりときたら。
クラウス・キンスキーといえば、昔からあまりに強烈なその容姿に注目していた。
寺山修司が監督で山口小夜子とかピーターとか高橋ひとみが出た『上海異人娼館』の変態エロジジイの役とか。
前後して、『恐怖の訪問者』だったかな?、たしかそんなタイトルのB級映画をテレビで見て、当然恐怖を与える方の役で怖かった。
とにかくヘルツォーク作品以外では、B級映画の悪役の人なのだ。
同じ頃、『テス』で初めてナスターシャ・キンスキーという壮絶な美少女を見て後で二人は親子と知り、「なぜ!?」と大きな衝撃を受けたものだ。

そういえば一昨日はアントニオ・バンデラス主演の『レジェンド・オブ・メキシコデスペラード』をテレビで見てしまって(原稿を書きながら)、コロンビアで撮影したという『コブラ・ヴェルデ』と風景や全体の印象が重なった。
乾いて黄色っぽい、サーモンピンクっぽい砂や石の感じとか。
キンスキーほどじゃないけど、復讐に燃えるマリアッチの男バンデラスのアクの強さとか。
デスペラード』は、パステルカラーのペンキを塗った石造りの家々や、死者の祭りのカラフルで安っぽい飾りとかがきれいだったな。
アメリカ国境のサンタ・セシリアという設定になっていたが、ロケはどこでしたんだろう。
別に行くつもりはないけど。